「19頁目 さよならホフマン」

 ×月□日 リバーサイドの集落にて


 トルネコさんの船に乗り込んで、わたし達は西の大陸へ向かったんだけど、途中で嵐にあって、近場の島に逃げ込んだ。それが今いるリバーサイド。


 ……なんだけど、それよりもまず、書かなきゃいけないことがある。


 アリーナ達が仲間になって、わたし達は意気揚々とミントスの街を出発しようとしたんだけど、ホフマンが突然、仲間から抜けると言い出したんだ。


 ホフマン曰く……


「突然ですが皆さん。 私もいずれは親父の後を継いで宿屋をやるつもりでした。ヒルタン老人の元で修業して夢を叶えたいと思います。元気でなっ、パトリシア! さようなら皆さん! ご無事をお祈りしてます」


 彼は彼なりに自分の人生について深く考えたのだろう。父の後を継いで立派な宿屋になるのだという彼の決意は固かった。


 皆は彼の意志を尊重した。わたしやマーニャ達、それにアリーナも旅の目的の根底には復讐というドロドロとした負の感情がある。けれど、ホフマンは違う。彼にはわたし達とは違う、大きな夢があるんだ。

 後で聞けば、トルネコさんには色々と相談していたみたいだ。武器商人として有名なトルネコさんに色々と商売の話を聞いて刺激も受けたんだと思う。トルネコさんは父親みたいな暖かい眼差しで、去っていくホフマンを見つめていた。


 一緒にいるときは苛立つことも多かったけど、やっぱり仲間が去ってしまうのは寂しい。でも、生きているんだからまたいつか会える。うん、きっとまた会いたいな。




 ホフマンと別れたわたし達は船に乗り込み、西の大陸を目指した。


 大海原、広い青空。風を帆に受けて船は走る。


「あーあ、ホフマンがいた時は重い荷物も ぜーんぶ持ってくれたのにいー」


 看板で寝転んでいたマーニャがポツリと呟いた。


 ……そういうことか。マーニャがホフマンに荷物を持たせていたから、ホフマンはわたしが道具を持たせようとしても「持ちたくないようだ」なんて顔をしてたのか。元凶はこのお気楽お姉さんか。


「ごめんなさいね、姉さんっていつもこうなの」ミネアが申し訳なさそうに俯いた。




 ミントスからの船旅。見渡す限りの海。ヒルタン老人に貰った地図を見ながら進む。まだ知らない大陸も多い。

 穏やかな船旅だったけど、突然怪しい雲がもくもくと湧き上がってきたと思ったら、海は急に荒れ出した。

 慌てて帆を畳んだわたし達、見れば左手に島が見えてきた。こんな嵐で沈没しちゃったら元も子もない。

 逃げこむようにして、島に向かった。

 こういう時に頼りになるのがマーニャ。船の後ろに向かって、メラとかギラとかを唱えまくるの。そうすると、魔法の勢いを反動にして、船は暴風に逆らって任意の方向に進むってわけ。

 すごいでしょ。裏技的な技術。お気楽お姉さんもやるときはやるね。ちょっぴり見直しちゃった。


 そんなこんなで、島に辿り着いた。島に着くことには嵐は過ぎていたけど、魔力も使っちゃったし、何か冒険のヒントがあるかもしれないということで上陸することにした。


 島は険しい山に囲まれていて、北から川を上るように進むしか上陸できるポイントはなさそうだった。

 狭い川を気をつけて南下すると川岸の両側に集落が現れた。


 リバーサイドという村らしい。なんとか着岸して宿屋に辿り着いて、こうして日記を開いているってわけ。

 魔物と戦ったというわけでもないのに疲れた一日だった。


 村で聞いた情報は今の所、必要があるのかわからないが書き留めておくね。


 ・この島には魔物のお城があるらしい。確かめに言った人で生きて帰ってきたものはいないらしいが。


 ・村では物好きな人が空飛ぶ乗り物を作っているらしい。(空気より軽いガスがあれば完成するという)


 ・島の中央の像が動くのを見たという人がいた(だからなんだ?)


 さ、明日のために早めに就寝するとしよう。

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