「18頁目 新たなる仲間たち」

 ×月△日 


 ソレッタにて走り書き。

 驚きだ。パテギアのタネをソレッタの畑に撒いたらみるみるうちに芽が出た。そんなことがあるのだろうか。ともかく、わたしたちはようやく「パテギアのねっこ」を手に入れたのだ!

 今度こそクリフトさんの待つミントスへ急ぐことにする。



 ☆



 ミントスの宿屋にて。

 ミントスにはアリーナ姫も戻ってきていて、挨拶も早々にパテギアの根っこをすりつぶしてクリフトさんに与えた。すると、みるみるうちに顔色が戻ってクリフトさんは元気になった。びっくりだ。こんなことってあるの?

 パテギアは魔力を宿しているのかもね。ホイミとかそう言う即効性の解毒効果のある薬草なのかも。


 アリーナ姫は飛び上がって喜んでわたしに抱きついて「ありがとう、ありがとう」と叫んで、手を取ってぴょんぴょんと跳ねた。ウワサ以上のおてんば姫だった。可愛いけど。


 彼女はサントハイムのお姫様でデスピサロという男を探しているのだという。わたしの村を滅ぼしたあのデスピサロだ。


 聞けば彼女もなかなか大変な旅をしてきたようだった。


 アリーナ姫はエンドールで行われるという武術大会に出るために、王様の目を盗み旅にでた。すぐにクリフトさんとブライさんに見つかって、なんだかんだあって父の許しを得て三人で旅をすることになったのだ。

 大陸を巡り、ついにエンドールについたアリーナは武術大会に参加することになった。

 わたしがエンドールにたどり着いた時、エンドールの王女とボンモールの王子の結婚式が行われていたけれど、元々はこの武術大会の優勝者とエンドールの王女が結婚させられるという話だったのだ。

 ひどい話だよね、王様が独断でそんなことを決めて、世界中からツワモノどもが集まったみたいなんだけど、好きでもない荒くれ者と結婚させられちゃうなんて王女様、かわいそう。

 アリーナもそう思ったみたいで、自分が優勝して結婚の話を無し崩しにしようとしたみたい。

 武術大会でアリーナは奮闘した。次々と現れる強敵を倒し、ついに決勝戦に進んだ。その決勝の相手がデスピサロだったのだ。

 デスピサロは相手の息の根を止める残虐な戦士だったらしい。圧倒的な力を見せながら無口で不気味なその男に人々は恐怖した。魔族ではないかと噂が立ち街の人たちも、不気味なデスピサロが王女様の結婚相手になるなんて望まなかった。

 だからみんなアリーナ姫を応援していた。


 そして、ついに訪れた決勝戦の舞台。


 だが、デスピサロは現れなかった。それどころか煙のように姿を消してしまい、そのまま二度と現れることはなかった。

 その時、アリーナ姫の元に悲報が入った。祖国サントハイムの人々が忽然と姿を消してしまったというのだ。アリーナの父であるサントハイム王は未来を予知する夢を見ることで有名だったらしいのだが、そのサントハイム王が恐ろしい夢を見たために、アリーナ姫を城に呼び戻そうとした直後に、城の人々が残らず姿を消してしまったのだという。

 アリーナは武術大会で姿を消したデスピサロという男が怪しいと睨み、彼を追って再び旅に出たのだ。


 彼女もまた家族を失った過去を持っていたんだね。



 わたしたちは共に旅をすることを決めて、ささやかながら懇親会という名の宴を開いた。

 さっきまで病に伏していたクリフトさんも陽気に食事をとったし、眉間にしわを寄せているばかりだったブライさんもお酒を飲んで上機嫌だった。


 マーニャに勧められてわたしも少しお酒を飲んだ。体がポカポカして気持ちいいものだった。……だから少し字がフワフワしちゃってるのかも。


 こうしてシンシアに向かって、一人で文字を綴っているけど、扉の向こうには大勢の仲間がいてね、不思議だよね。


 一人ぼっちで旅を始めたわたしがこうしてたくさんの仲間を得られたのは素直に嬉しい。寂しさもほんの少しは紛れた。

 でも、忘れてはいない。家族をシンシアを殺した魔物達をわたしは許さない。それは父を魔物に殺されたマーニャやミネアも同じだし、祖国の人々を消されたアリーナ達も同じだろう。



 宴会を終え、明日に備えて眠ろうかと部屋に戻る最中、宿屋の別の部屋に宿泊していた男がわたし達の元に駆け寄ってきてこう言った。


「悪いとは思ったのですが、立ち聞きしてしまいました。あなたが世界を救ってくれる勇者様だったとは! 以前、この宿に泊まったライアンという者が勇者様を探していたのです。確か、ライアン殿は遙か西の国、キングレオに行くと申しておりました……」


「なんですってえ!?」

「キングレオに?」

 酒に酔って上機嫌だったマーニャの表情が凍りつき、普段はおとなしいミネアも珍しく声を荒げた。


 キングレオ。そう、そこには彼女らの仇敵がいるのだった。


「マーニャ、ミネア。次の目的地が決まったね」


 わたしが言うと二人は頷いた。


「ええ。そのライアンさんって戦士を助けに行きましょう」



 わたしたちは次なる目的地を定め、決意を胸にした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る