「16頁目 何度目なのか! ミントスの宿にて

 ×月○日 ミントスの宿屋


 はぁ、今日もパテギアのタネを手に入れることはできなかったよ。


 再びソレッタ南の洞窟に入ったのね。

 作戦は「じゅもんをせつやく」で。洞窟の中の魔物はやはり外界と違い強敵ぞろいだ。真っ白な体毛のずんぐりむっくりボディのイエティなんていう魔物も確かに強いけど、それより「じごくのよろい」という甲冑型の魔物が恐ろしい。

 ガチャンガチャンってやってきては時々「痛恨の一撃」を放ってくるの。


 体力のあるわたしやトルネコさんが受ける分にはまだ耐えられるけど、ミネアやマーニャなんて、か弱い乙女が食らってしまうと一撃で死に至るような強烈な攻撃なのだ。(……いや、わたしだって、エンドールでこの姉妹と出会った頃は、か弱い乙女であったはずなんだけど、旅をしている間に体力がバリバリ増えてるんだよね。男であるホフマンなんかより全然強くなっちゃって、ちょっと恥ずかしい)


 ほんと、じごくのよろいの攻撃力は半端なくて、実際にトルネコさんが会敵早々に「痛恨の一撃」を受けてしまって死にかけたりと、なかなかスリリングな洞窟探検だった。ミネアとわたしが回復魔法を使えるから、その時はなんとかなったけど。


 洞窟はツルツル滑る床が特徴的で氷の壁が周囲に広がりともかく寒い。凍るような寒さで皆の口数も少なかったけど、トルネコさんが皆の緊張を解いてくれる冗談を言ったりしてくれたので助かった。


 この前も書いたけど、トルネコさんは妻帯者だし有名な武器商人だし、一見、頼り甲斐のあってパーティの中ではいちばんの常識人っぽく見えるんだけど、全然そんなことない。


 戦闘中も呪文を唱えようとする魔物の口を塞いだり、魔物を宥めようと「まぁまぁみなさん」なんて言葉の通じる通じないに関わらずに話しかけたりして、ただでさえどう猛な魔物を余計にいきり立たせたりするし、なんていうかムードメイカーというかトラブルメイカーというか、そんな感じのパーティを盛り上げ(?)てくれるコメディ担当のおじさんなんだ。


 しかし、そんな風にトルネコさんのおかげでドタバタながらも和気藹々と進むパーティに衝撃が走った。


 洞窟の中腹で、じごくのよろいの痛恨の一撃を喰らい、トルネコさんがあっさりと命を落としてしまったのだ。トルネコさん二度目の死亡である。完全な油断だった。魔物相手にダジャレなんて言っているから……。



 慌ててマーニャがリレミトの呪文を唱えて洞窟を脱出。


 街に戻ろうかそれとも、トルネコさんのご遺体が納められた棺桶を馬車に残して、残りのメンバーで再アタックしようかと相談をする。重大な会議だった。


 わたしとミネアは一度、「街に戻ってトルネコさんを生き返らせよう」と提案したのだけど、マーニャとホフマンは「あとで教会に行けばいいんだから、今はパテギアのタネを先に入手しよう」という意見だった。

 ブライさんは神妙な顔つきで、仲間を失ったわたし達に気を使ってくれて意見は言わなかったけど、結局は相談の後、ホフマンを馬車から出して再アタックすることになった。


 馬車にはトルネコの棺桶とブライさんが待機に。……ブライさんにはちょっと可哀想だけど、馬車も守っておく人は必要だし、洞窟に連れて行くにはブライさんはおじいちゃんだし、体力も少ないし、魔法は使えるけど、ちょっと頼りないんだ。


 久しぶりに馬車の外に出たホフマンは張り切った。ホント、やかましいくらいに張り切ってたよ。


 トルネコさんがいなくなったことで男は彼一人(ブライさんはいるけどおじいちゃんだし)になったので頼り甲斐があるってことをわたしたちにアピールしたかったんじゃないかと思う。


 でも、ホフマンってなんか空気読まないし協調性はないタイプじゃん。いくら武器を買ってあげようとしても、かたくなに「ホフマンは持ちたくないようだ」って感じの顔をするし、経験値を積んでも戦いのレベルが一向に上がらないんだよね。魔物からのダメージは大きくなる一方で、パーティ間の連携もうまくいかなかった。



 それを全てホフマンのせいにするわけじゃないし、わたし達の実力不足は言うまでもないんだけど、やっぱり苦戦してしまって、またしても皆の魔力が切れかかってしまったので、今日の探索も諦めることにする。


 再びリレミトを唱えて、洞窟を脱出すると、ルーラを唱えてミントスの宿に戻った。教会に寄ってトルネコさんも生き返らせた。


 今回は完全に実力不足の敗戦って感じで落ち込んだ。

 皆で宿屋の食堂で反省会をする。レベルをあげて、武器防具もこの街で買える最強のものを揃えてから、また挑もう、となる。


 あと、トルネコさんが死んでる間に、彼の装備していた「正義のそろばん」(大型のそろばんで敵をぶん殴るっていう人を馬鹿にしたような武器)を売って、もっと攻撃力の高い「破邪の剣」に変えておいたんだけど、そろばんの方に結構愛着があったみたいで、少し悲しそうな表情だった。


 良かれと思ってしたことなんだけど、ちょっと悪いことをしちゃったかなぁ。

 申し訳なかったので、少し奮発してトルネコさんが好きなお酒を買ってあげた。「気を使わせて申し訳ないですね」って苦笑いしていたけど。


 さ、明日も再びあの洞窟に向かうので、早めに寝ようと思う。


 追伸。

 あと……、クリフトさんは相変わらず苦しそうに唸っている。死んじゃうんじゃないかな? いっそ、一回死んでもらって教会で生き返らせてもらうとか、どうかな?


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