「5頁目 三人旅」

 ○月△日アネイル 山奥の村を旅立って16日目 


 経験値とゴールドを稼ぐために、アネイルを拠点にしているので、日記を書く暇が結構あっていい感じ。

 アネイルは温泉街なので、なんとなくのんびりしてしまうんだ。


 さて、話を戻すね。仲間になったジプシーの姉妹と一緒にエンドールで情報集めをした。


 エンドール城の奥にあるコロシアムではエンドール王子と隣国のボンモール王女の結婚式が行われていて、街は祝福に包まれていた。

 地獄の帝王が復活するなんて話題は全然で、街は結婚の話題で持ちきり。

 他に手に入った話題といえば、武器商人のトルネコさんが、伝説の武器を探してブランカの東の砂漠を越えたとかって話くらい。(ブランカとエンドールの洞窟を掘る資金を出した彼だ)


 大した情報もなく、これからどうしようかと三人で相談する。

 船でもあれば自由に世界を旅することができるけど、机上の空論だ。わたし達は船を買うお金もないし、歩いて旅をしなければならない。

 それに、わたしはまだ魔物との戦いに慣れていないし、装備してるのも「どうのつるぎ」とか、「かわのよろい」という貧弱な物なので、過酷な戦いにも耐えられるようにまずは装備を整えましょう、とミネアに提案された。


 装備を買うためにお金を稼ぎ、厳しい戦いを生き抜くために経験を積もう、ということになり、魔物退治の修行の日々に入ることになったのだ。

 

 次の日、修行と探索をかねてエンドールの北西に行ってみた。地獄の帝王が復活したなんて、想像もできないのどかな平原を進むと海岸線に建物が見えた。「旅の扉」という古代種族が残した不思議な魔法を施したほこらだった。


 「旅の扉」は一瞬で別の場所に移動ができる古代の魔法らしいのだが、許可がないと使用できないらしい。仕方がないので隣の宿屋で一泊した。

 その宿屋で、西の大陸のサントハイムというお城の人たちが、忽然と姿を消してしまったという話を聞く。

 ほこらを警備していたサントハイムの兵士が宿にいて教えてくれたのだ。生き延びたのは彼や数名の兵士と、旅をしていて難を逃れたサントハイムの姫アリーナとその一行だけだという。

 アリーナ姫は城の人々が消えたのは魔物のせいだと目星をつけ、デスピサロというあやしい者を追いかけて旅をしている、と言っていた。

 久しぶりに聞く、デスピサロという名前に全身が総毛立った。わたしの他にもデスピサロを探している人がいたんだ。


 ミネアとマーニャにわたしの生い立ちと、村を滅ぼした魔物がデスピサロの名前を口にしていたことを伝える。


「ハナも辛い思いをしたのね……」

「絶対デスピサロを見つけて仇をとってやろうね」


 二人はわたしを慰め勇気つけてくれた。


 ともかく、旅の扉が使えないとなると、ここから西の大陸へは進めないようなので、一度エンドールに戻り、宿で一泊したわたし達は、北のボンモール王国に向かってみることにした。


 エンドールから北に進み、有名な建築家のドン・ガアデが作ったという橋を越えると、半日もかからずにボンモールの国にたどり着いた。


 ボンモールはエンドールに比べれば小振りな国だが、わたしの故郷のなんにもない山奥の村に比べたら、巨人ギガンテスと赤ん坊くらいの差はある。

 ボンモールの王子がエンドールで結婚式を行なっているので、王族は総出で留守だ。なので城下町も居残りの兵士たちもなんとなく気の抜けた雰囲気を漂わせていた。


 わたし達はボンモールの城下町の宿屋を拠点にして、戦いの経験を積むために魔物が巣食う森へと入った。


 森に入ると魔物との遭遇率は高くなる。

 ミネアは細い体に似合わぬ「モーニングスター」という槍の先に鉄球がついたような凶悪な武器を振り回してサンドマスターという巨大ミミズや、ベビーマジシャンなんていう魔法を操る魔物をバシバシ倒した。見た目によらず豪快だ。

 占い師なんだから『タロット』とか『水晶』とかで華麗に攻撃したりしないのかな、って疑問に思ったので聞いてみると、


「……水晶は持ってるけど、武器にはならないわ。タロットは……持ってないの」とのこと。


「武器になる占い道具があったら面白いのにね」と何気なくわたしが言うと、

「世の中には、銀のタロットという不思議な力を宿したタロットがあると聞いたことがあります。……けど、この目で見たことはありません」と綺麗な瞳を伏し目がちにして悔しそうな顔をした。

 なんとなく、過去の旅で手に入れそびれたという感じの物悲しい顔つきになってしまったのでこの話はこれっきりにしたけど。


 マーニャはというと、重たい武器を装備したりはできないけど、閃光で敵集団を攻撃するギラや火の玉を飛ばすメラといった攻撃魔法を駆使して敵を次々に薙ぎ払った。さすが姉妹二人で旅をしてきたことだけのことはある。

 わたしはどうのつるぎをブンブン振り回したけど、なかなか二人のようにうまく戦えない。情けない限りだった。


「いーのよ、じっくりいきましょ」


 マーニャが落ち込むわたしの肩を叩いて慰めてくれた。カジノと酒に金を使いすぎなければ、彼女だって頼りになるお姉さんなんだよ。



 何日も修行をして、ついにわたしはミネアやマーニャともなんとかうまく連携が取れるようになってきた。戦いのレベルが上がったのだろう。ようやく二人と肩を並べて戦えるようになってきたので嬉しかった。


 ……ただ、困ったこともある。


 二人はわたしの作戦に従って戦闘をしてくれるのだけど……、わたし、人に指示を送るのってどうも苦手なの。

 どの魔物から攻撃してほしい、なんていちいち指示をしている暇はないし、そもそもわたしの性格上『めいれいさせろ』なんて偉そうなことは言えないので、『みんながんばれ』とか『じゅもんをせつやく』とかふんわりした作戦で戦いを乗り切る羽目になってしまう。


 そりゃそうだよね。戦っている最中に、誰々はどの魔物に攻撃してー、誰々は誰々を回復させるために魔法を使ってー、なんていちいち指示するなんて現実的じゃないし、それって信頼関係がないってことだもんね。そんな高圧的に命令してたら関係が悪くなっちゃうもん。

 とはいえ、呪文が効かないメタルスライムに対してメラを何度も唱えてるマーニャを見ると、「めいれいさせて」って叫びたくもなる。けど、やっぱり性格上というかシステム上というか、それはできないので「いろいろやろうぜ」なんて曖昧な作戦でごまかしたりしてお茶を濁す始末だよ。

 「めいれいさせろ」なんて堂々と言える勇者になりたいよ。


 そうそう、そうだ。それで思い出した。わたしが「いろいろやろうぜ」なんて言い出したら、ミネアが道具袋に入っていた「聖水」の瓶をメタルスライムに投げつけたの。

 わわ、何してんの、と思ったんだけど、なんと聖水を振りかけられたメタルスライムは一撃で倒せてしまったの。メタルスライムってすぐ逃げちゃうし、体も硬くて全然攻撃が効かないんだけど、その代わりに、一匹倒すだけでも、すごく強くなれるって神秘的な魔物だったから、驚いちゃった。

 聖水が苦手だったんなんて知らなかった。倒したら突然、新しい魔法が使えるようになったりして、うっそーって三人でぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだのは良い思い出。

 いくら聖水が魔物を寄せ付けない聖なる水だからって、一撃で倒せるなんて裏技って感じだよね。みんな知ってるのかな? 



 さて、そんなこんなで、頑張った甲斐もあってお金も経験も溜まったので、はがねのつるぎ、てつのよろいなど、ボンモールで一番高い武具を買って装備した。


「そろそろ東の砂漠ってやつに向かってもいいんじゃない? ハナもだいぶ戦闘になれたようだし」


 マーニャの提案でわたし達はブランカの東の砂漠を目指すことにした。この後、色々あって砂漠を越えて、この温泉街アネイルにたどり着くんだけど、その色々ってのがまた大変で……


 あ、マーニャが酔っ払って帰ってきた。またどこぞの男の人にご馳走になった見たい。マーニャって酔うとめちゃくちゃ絡んでくるんだ。もう一人妹ができたみたいで嬉しいんだって。そう言われると嫌な気はしないけど……。とりあえず、今日はここまでにするね。


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