「4頁目 ジプシーの姉妹」

○月×日アネイルの宿。 15日目 深夜の食堂にて


 一度は日記を閉じて寝ようと思ったんだけど、ミネアが起きちゃって、色々話してたら、変に目が覚めちゃった。

 もうミネアは寝たけど、わたしは宿屋の受付の横の休憩所の明かりの下で、まだ起きてる。

 


 なんとなく、眠たくないから、続きを書くね。中途半端なとこでやめられないのはわたしの良いところでもあり、悪いところでもあるってよくシンシアにも言われたっけ。

 ともかく。


 さっきのつづき。ミネアとの出会いから。



「占いはいかがですか? 10ゴールドであなたの未来を見て差し上げましょう」


 エンドールにたどり着いてふらふらと街を歩いていると、教会近くの路地に水晶を出して辻占いをしている娘がいた。

 神秘的な雰囲気を醸し出すミステリアスな美少女、それがブランカで噂を耳にした、勇者を探している占い師の少女、それがミネアだった。

 彼女の不思議な雰囲気に誘われて、わたしは懐からお金を差し出した。ミネアはにっこり微笑んで水晶に手をかざした。


「では、占って差し上げましょう」


わたしと同い歳くらいの少女なのに、大人びた口調。吸い込まれそうな神秘的な瞳に釘付けになってしまう。


「あなたのまわりには7つの光が見えます。まだ小さな光ですが、やがては導かれ大きな光となり……。えっ!?」


 静かな眼差しで占いをしていたミネアが突然、その瞳を大きく見開いた。


「も、もしや……、あなたは勇者様!?」


 驚いた彼女の表情は、年相応の少女に戻った。彼女はそうとは知らずにわたしを占い、わたしが勇者であることを見抜いたのだった。


「あなたを探していました。邪悪なるものを倒せる力を秘めたあなたを!」


 ミネアは身を乗り出し興奮した面持ちで、戸惑い、たじろぐわたしの手を握った。彼女はわたしの言葉を待たずに「共に旅をさせてください」と言い出して、そそくさと占いの道具をしまった。


 おとなしそうな見た目の子だったけど、なんとも積極的だった。出会ってすぐ仲間になるなんて言い出すんだよ。もし、わたしが男の子だったら勘違いしちゃうよ。


 荷物をしまって準備が整った彼女は「姉にも会ってほしい」と言った。ミネアには踊り子の姉がいて、二人で勇者を探していたのだという。

 頷いたわたしはミネアと一緒に姉がいるという娯楽場カジノに向かった。



 シンシアはカジノって知ってたのかなぁ。知らないよね。シンシアみたいな人はあんなに賑やかなところは苦手だよね。

 カジノってね、エンドールの名物なんだって。わたし、初めてあんな華やかな場所に行ったから目がチカチカしちゃった。



 ミネアに連れられて金ピカのカジノ場に入った。真っ赤な絨毯が引かれ、シャンデリアが天井から吊るされた、きらびやかな場内を進むと、スロットマシーンという遊戯台の前に、ミネアとそっくりなのに露出度は高めの衣装を纏った派手派手のお姉さんがいた。それが姉のマーニャだった。


「姉さん、やっぱりここにいたのね」


 ミネアがじとっとした瞳でマーニャを睨む。


「ギクッ……」っと肩を震わせてマーニャが振り向いた。


「んもう! 私が占いで稼いでも全部カジノに注ぎ込んで。私たちもう一文無しよ」


 頬を膨らませてプンプン怒るミネア。


「えーん。ごめんなさい……」


 泣き真似で誤魔化そうとするマーニャは、妹の隣に見慣れぬわたしがいることに気がついた。


「こちらの方は?」

「私たちが探していた勇者様よ」


 ミネアがわたしを紹介してくれると、スロットですっからかんになっていたマーニャは嬉しそうに表情を緩めた。


「ちょうどよかったわ。これからはこの人(わたしのことだ)に養ってもらいましょう」


 そんな変な冗談だか本気だかわからない表情でマーニャはウインクすると、わたしに身を擦り寄せてきた。その色っぽさに同性ながらドキドキしちゃった。

 彼女はわたしよりも二つ三つ年上なだけなのに、あんなに大人の色気があるんだもん。困っちゃうけど、ちょっとだけ羨ましくもあったり……。


 シンシアもわたしにとってはお姉さんみたいな存在だけど、マーニャはシンシアとはまた別のタイプのお姉さんって感じなんだ。

 二人とも褐色の肌に夕暮れと闇夜が混じり合った空の色みたいな深紫色の長い髪を下ろした美人で、陰と陽って感じの正反対の性格でね、錬金術師である父を殺した仇敵バルザックという男を追うために旅を始めたんだって。


 バルザックは彼女たちの父が発見した「進化の秘法」という恐ろしい秘術を奪い、人間の姿を捨て、魔物と結託していたんだって。

 二人はキングレオというお城で後一歩というところまでバルザックを追い込んだけど、突如現れた強大な魔物に返り討ちにあって、その時に一緒だったオーリンさんっていう仲間の犠牲で、なんとか命からがら逃げるようにエンドールにやってきた。

 わたしにとってのシンシアが、彼女達にとってのオーリンさんだったんだね。

……わたしの境遇と似てるよね。


 失意にくれながらも、「仇敵を倒すためには勇者の力を借りる必要がある」という神のお告げを受けた占い師のミネアの提案で、二人は勇者であるわたしを探していたみたい。

 そして、お告げの通りにわたしと出会い、一緒に旅をすることになったんだ。

 これが、ジプシーの姉妹との出会い。



 ……っと、夜も更けてきたし、今日はここまでにしよ。

 続きはまた、明日にでも。


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