「2頁目 旅立ち……木こりの家で」

 山奥の村を出たわたしは南に向かった。森を抜けた先にブランカという栄えた国があることは村人の話で知っていたから。


 シンシアは村の外には出たことあるのかな。わたしは初めて村の外に出たんだよ。

 高い木々が生い茂る森の中をひたすら歩いた。日は沈み暗い森の道中、魔物に出会わなかったのは幸運だった。

 しばらく行くと、森の中に一軒の小屋があった。住んでいたのは一匹の老犬と木こりのおじいさんだった。


「なんだおめえ! 旅のもんか? ここは『木こりの家』だ。にしても、おめえ、しけたツラしてるな。おれは陰気くさいガキは大嫌でえきらいなんだよ! てめえみたいなガキはさっさと山をおりやがれ! お城があるからよ!」


 現れた木こりのおじいさんは頭ごなしにわたしに怒鳴った。びっくりして、謝ってそそくさと小屋を後にしようとしたんだけど、


「ちょっと待った! なんだ、おめえの格好は!? それじゃ旅は出来ねえぞ! あっちの部屋のツボの中にいろいろ入っているから持って行きやがれ!」


 と、叫んでわたしにツボの中に入っていた『かわのよろい』や『やくそう』をくれた。

 変なおじいさんだよね。随分と乱暴な口調なのに、なんか優しいの。てか、ツボの中に鎧をしまってるのって意味わかんないよね。単にわたしが山奥の村から出たことがなかったから知らなかっただけで、ツボになんでもしまうのって常識なのかな?

 まあ、そんなやりとりをしながら、わたしがお礼を言って小屋を出ようとすると、おじいさんは真っ暗になっている外を見て、ちっと舌打ちをした。


「てめえみたいなガキは一晩泊まって行きやがれ」


 怒鳴りながらさささって空き部屋に布団を準備してくれた。やっぱり変なおじいさんだよね。

 次の日の朝、お礼を言って小屋を出たわたしは更に南下し、森を抜けた。



 青い空に白い雲。穏やかな天気の中、草原を歩いていると、大きなお城が前方に見えてきた。


 ブランカのお城だ。


 シンシアは行ったことあるかな。ブランカって大きなお城の前に城下町があるんだ。

 城下町では勇者が魔族に滅ぼされたという噂で持ちきりだった。どうやら、わたしのことを皆は話しているようだけど、なんだか不思議な感じ。だって、勇者だなんて、自分でも信じられないもの。

 そうでしょ? わたしは山奥の田舎娘だし、シンシアも知ってるだろうけど、人見知りで仲良くなった人にしか上手く喋れないんだよ。ぜんっぜん勇者っぽくない。

 初めて喋る人には、緊張しちゃって「はい」とか「いいえ」とかしか言えなくて、いつもシンシアに助け舟を出してもらってたもんね。そうそう、シンシアにだけだったんだよ、こんなに饒舌なのは。


 城下町には魔物退治に向かうという勇敢な人達のパーティがいたるところにいてね。筋肉の鎧のそのまた外側にてつのよろいを装備した勇ましい戦士や、大きな水晶がついた杖をついて歩く華やかな女の魔法使い。商人や僧侶など、さまざまな職業の旅人がこの国に集まっていた。どうやら旅立ちの挨拶を王様にするのがしきたりのようだった。


 恥ずかしながらこの歳まで山奥の村に住んでいたわたしはこの世界の常識もあまりよく知らない。約束も無しで王様に会えるのかとおっかなびっくりだったけど、城に行ったら意外にも王様は気さくにわたしに会ってくれた。

 真っ赤なふかふかの絨毯の上に金ピカの玉座。そこに座る白い髭の王様はわたしに言った。


「よくぞ来た! 勇者を目指す者よ! そなたもまた世界を救うため旅をしているのであろう! ほほうハナと申すか? 良い名前じゃな。ではそなたがするべき事を教えてしんぜよう! 地獄の帝王が蘇るのを何としてでも止めるのだ!」


 スラスラと王様は言葉を並べた。きっと次々にくる冒険者たちに毎日のように言っている台詞なんだろうね。

 それにしても、『地獄の帝王』か。それがわたしが倒すべき相手のようだ。山奥の村で魔物に名を呼ばれていた『デスピサロ』という奴も、その『地獄の帝王』の手先なのだろうか。憎き仇の名を思い出すと心に憎しみの炎が灯った。

 わたしが少し表情を変えたことに気がついたのか、王様は慈愛に満ちた笑みを浮かべた。


「そなたのような若い娘には辛いことかも知れぬが、気を付けて行くのじゃぞ……」




 お礼を言ってお城を後にしたわたしは宿屋に部屋をとってから街に出て情報収拾をした。山奥の村とは違って、街の人々は垢抜けていて、おしゃれで、都会っぽくて、ちょっと気兼ねしたけど。人見知りの割には頑張ったと思う。シンシアにもわたしの頑張りを見せてあげたかったよ。きっと、びっくりしたと思う。

 それでね、重要な情報も三つほど得ることができたんだ。


 一つ。トルネコさんという武器商人が長いこと作業が止まっていた西の洞窟を開通させたので、エンドールという国へ行けるようになったということ。


 一つ。エンドールには凄腕の占い師と華麗な踊り子の姉妹がいて、二人は勇者を探しているらしい、ということ。


 最後に。エンドールとは逆の方角である東の土地に住む魔物は強く、その先には砂漠が広がっていて、歩いて越えるのは大変だ、ということ。


 慣れない会話で疲れたわたしは宿屋に戻って、今後のことを考えた。色々と考えた結果、まずは西の洞窟を抜けてエンドールに行こうと決めた。勇者を探している姉妹というのも気になるし、占い師なら自分の行く末も占ってもらえるかもしれないと思ったんだ。



 ……あと、これは完全な余談なんだけどね。夜、寝れなくて城下町を散歩したんだけど、その時に会った人に教えてもらった話。書いておくね。


 森でお世話になったあの口の悪いけど親切なきこりのおじいさんのこと。おじいさんは昔は息子さんと暮らしていたみたい。だけど、息子さんが雷に打たれて亡くなってしまったので、今は老犬と二人で暮らしているんだって。

 村を焼かれ、家族を失ったわたしはちょっぴりあの口の悪いおじいさんのことが気にかかってしまった。子供に先立たれて、きっと寂しい思いをしてるんだって、考えたらわたしまで悲しい気持ちになっちゃった。

 シンシアだったらきっと何かにつけて寄ってあげるんだろうね。わたしも今度、機会があったら寄ってあげようと思った。


 おっと、調子に乗って最初から飛ばして書きすぎると、すぐに飽きて書かなくなってしまいそうだから今日はこのくらいでおしまいにするね。


 最後に、現在地について、今更だけど書いておくね。今はアネイルっていう温泉街にいるんだ。この街で何日か滞在しつつ魔物退治をして経験値を積む予定だから、また暇ができたら、続きを書こうと思う。飽き性のわたしだけど、頑張るよ。

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