第23話 ワーク スケジュール ①

 アイドル生活二日目の朝は、爽やかな目覚めだった。

 昨夜の記憶は荷物を一通り整理し終えたところで途絶えており、ご飯を食べずに眠ってしまったのを思い出す。


 住処として用意してもらっている寮の食事は、朝晩と二回(お昼は申請すると出る)。玄関の直ぐ傍に備え付けられている開口スペース、そこに食事が運ばれてくるらしい。


 教えられた通りに戸を開けてみると、大きいサイズの電子レンジがあった。そしてレンジの中には、盆に乗せられた朝食が丁寧に蓋をされた状態で置かれている。



「本格的に仕事も始まるし、朝ご飯はしっかり食べておかないとね」



 用意してくれた食事を食べ終えて、僕は紫吹肇から蕗村咲へとスタイルチェンジする。この作業は、決して手を抜いてはならない。なぜなら僕は、女の子として振舞わなければいけないのだ。


 入念に時間をかけてメイクし、髪型を整える。

 時間も迫っており、僕は足早に支度を整えて部屋を出た。


 寮の一階には共有のランドリーがあり、洗濯物専用のボックスへ衣類を入れる。ここへ入れておくと、夜には洗われた綺麗な状態で返される仕様だ。

 

 

 外へ出たことで、太陽の光が眩しく降り注いできた。自身初となる東京の朝陽を全身で感じつつ、僕は太陽の方向へ駆ける。

 目指す場所は目の前にある高層建造物、寮から五分もかからず到着した。



「おはようございます!」


「あら、おはよう蕗村さん。新生活初日だったけど、昨日はよく眠れたかしら?」


「はい、大丈夫です」



 芸名としての僕の名前を呼んで挨拶を返してくれたのは、秦泉寺さんだった。今日も一段と化粧が決まっていて、できる大人オーラがにじみ出ている。

 秦泉寺さんの他にも事務所の中には数人のマネージャーさんの姿があった。みんな机に座り、渋い顔をしてパソコンと睨めっこしている。



「おはようございまーす!」



 後ろから聞こえた元気な声に反応して、僕は振り返る。そこには栗色の長い髪と大きな瞳が一際目を引く僕のアイドル、枢木夏向の姿があった。

 上は白シャツ、胸の位置に一輪のヒマワリが咲いている。下はフリルの付いた黒いスカートを穿いており、綺麗な脚部が目に入った



「おはよう、夏向」


「おはよう、咲。今日も一緒に、頑張ろうね!」


 夏向からの挨拶に、僕も元気よく声を返す。彼女の「一緒に」と言う言葉を聞いただけで、堪らなく嬉しくなった。



「じゃあ二人共、レコーディングスタジオへ行くから準備しておいて」


「「わかりました」」



 僕と夏向は、息ピッタリに返答した。

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