シェフの気まぐれ潔癖症マッシュソースを添えて

エリー.ファー

シェフの気まぐれ潔癖症マッシュソースを添えて

 潔癖症は、塩味である。

 そのため、基本的にどの料理でも、潔癖症の性格の人間の肉片は非常によく合うのだ。

 ただし、それは潔癖症の人間が生きたまま肉片にされた場合に限るのである。目を覚ましていなかったり、眠ったまま殺してしまうと味を損なう恐れがある。

 新鮮かつ、生で提供、そのうえで、強いこだわりを持つ。

 それがプロなのだそうだ。

 そのため、私は目を瞑っていた。

 意識はある。

 しかし、目を覚ましたらその時点で終わる。

 自他ともに認める潔癖症の私は、たったいま、人生の岐路に立たされていた。

 シンバルの音が鳴り響き、机の横で何かが思いっきり叩かれると音。

 そして。

 誰かの叫び声が聞こえてくる。

 私はひたすらに息を吸い、吐き、そして、吸い、吐き、を繰り返している。ただし、それが大きな呼吸音になると気が付いていると気づかれる恐れがある。できるかぎり、小さく長い呼吸音にすうることで眠っているということにしておかねばなるまい。

「すいませーん。おきてくださーい。潔癖症さーん。起きて下さーい。」

 私は無視をする。

 もう、友達は殺された。

 父も殺された。

 母は、割と大雑把な人なので私が連れていかれる時にも笑顔だった。感情もお大雑把なのだと思う。

 妹はどちらかというと、大雑把だが、潔癖症の人間たちを捌くのがうまいので料理人側に回っている。

「妹さんも、このおみせで頑張って働いてるんですよー。お兄さんが意地を張ってどうするんですかー。ねぇ、どうするんですかー。」

 どうするも何も生き残るんだよ、バカ。

 大体なんだ、潔癖症の人間の肉片は死味がきいていて美味いというのは、誰が言いだしたんだ。そもそも、潔癖症の人間を殺して食ったというところに何故、だれも目がいかない。塩味がきいていておいしいなら、じゃあ、殺して食べましょうか、という方向で議論が進み、そのまま法律が通る意味が分からない。

 潔癖症な議員もいただろうに。

 いや。

 その場で食べられたのかもしれない。

 そのあたりはよく分からないが。

「中々、起きないなぁー。あのぉ、すいませーん、もしもーし。」

 目など覚ますものか。

「しょうがないなぁ、実はあたし、今一つだけあなたの秘密を握ってるんですよね。」

 何のことだろうか。

「几帳面な人間の肉片が塩味で美味しいっていう流れの前に、怠け者の眼球はマンゴーの味がして美味しいっていうブーム合ったじゃないですか。怠け者が次から次へと掴まっていったやつ。」

 確かにあった。

「あれを最初にやったのって、貴方ですよね。」

 そうだ。

 美味しかったし。

 それに。

 怠け者がこの世の中から消えて一石二鳥だった。悪くない考えだったと思う。

 マンゴーの味がしたのは本当だし、怠け者を効率よく捕まえる手段を考案したのも私だ。ベルトで固定させて、無理矢理開かせた目にスプーン上の器具を差し込み掻き出すのだ。

 あれほど簡単なものはない。

 人間という生き物の健全化に非常に役に立ったと思う。

 その瞬間。

 思いっきり顔を叩かれて、つい目を開けてしまった。

 包丁を持って、私を殺そうとする料理人。

 眼球がなかった。

 怠け者として追われて必死に逃げてきたのだろう。

 私はそれが哀れで哀れで爆笑だった。

 最高の目覚めだ。

 包丁。

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