水金地火木土天正解
エリー.ファー
水金地火木土天正解
私には愛する姫がいる。
その姫は眠っている。
美しい顔で眠っている。
悪い魔法使いに、呪いをかけられて眠っている。
私はそれを見つめ続けている。
しかも、姫は呪いに打ち勝とうと必死である。
そのため、毎日、姫は。
スマホのゲームのログインボーナスのために、必ず起きる。
「やっば、百日目、金のガチャチケット十枚じゃん。気前良すぎじゃない。」
私は騎士だ。
姫を守る騎士だ。
だが、姫と仲良くなるためにとスマホのゲームを始めた。
もう久しく剣は握っていない。久しぶりに剣を持ったが重くてとてもではないがふるうことはできなくなっていた。その代わりのようにスマホのゲームの中にいる私のアバターはやたらと大きい剣を振り回している。黒い着物のようなものにオレンジ色に染めた髪で、なんとか代行、なんとか代行と叫んでいる。おそらくそれ以外の語彙力がないのだろう。可哀そうに、自分で育てたアバターながら不憫に思う。
スマホのゲームのルールは単純で、ホロホロとかいう気味の悪い化け物を片っ端から切り刻み、それを気として充填してボスに向かって投げつける。そうすると中学生くらいのひ弱な少年がテニスラケットを使って何故か打ち返し、三代目海賊王を目指すために切磋琢磨して、奇妙な冒険に足を踏み入れる。それを見届けながら、自転車で坂を上る時にアイドルの曲を仲間と共に歌うという音ゲーである。
かなり複雑だが、こういうものである。
売れ線をすべて入れ込むとこういうゲームが出来上がるのだと、私は勝手に思っている。そして、おそらくこういうものが好きで好きでしょうがないというのが今の消費者というものなのだろう。
姫も。
眠り続ける姫も。
御多分に漏れず、その内の一人である。
目が覚めるたびに、姫は恍惚の表情でガチャを回す。
これは、カタルシスだろう。
このために、呪いをはねのけているのだから、その際に、姫の中に生まれているであろう快感の指数は計り知れない。
私は、ようやく始めたばかりだが、姫のゲームレベルは著しく低い。それもそのはず、姫は最早ゲームなどやっておらず、ログインボーナスを取るという惰性でそのアプリをスマホに入れているからである。
一度起きていた時に、質問をしたことがある。
「姫、もう、それはアンインストールされてはどうでしょう。」
「うるさいバカ、あっち行け。」
そして、直ぐに眠りに落ちた。
私はため息を一つ付いた。
あの、騎士も可哀そうでね。
えぇ、だってそうじゃないですか。
姫の近くにいたせいで、呪いが移ってしまって、今では姫の横で寝て、姫がログインボーナス目当てで起きる時に、一緒に目が覚める様になってしまったみたいだし。
でも、どうなのかしらね。
だって、そうでしょう。
一番好きな人が起きているときだけ目が覚めて、それ以外は寝てるんでしょう。だったら、あの二人の人生は、少なくとも、起きているときは好きな人と話し続けてるということと同義になる訳だし。
それも、幸せの一つなのかもしれないわね。
あっ、ちょっと、待ってて。
うん。
あぁ、よしっ。だと思ったのよ。
え。そうそう。
これ見てよぉ。
ウルトラレア二体。
水金地火木土天正解 エリー.ファー @eri-far-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます