第4話
私は結局一睡も出来ないまま、朝を迎えた。
7時過ぎに母はガタガタと起きてきて朝食を作る。いつもなら私と一緒に食べるのだが、今は夏休みなので母は私を起こさず、自分で支度をして9時過ぎに会社に出かけていた。帰宅は買い物を済ませ5時半ごろだった。
その日の夜、晩御飯を済ませ、風呂から上がった母は、濡れた髪の毛をタオルでパンパンやりながらTVドラマを見ていた。
私は母に向かって「明日お父さんのお墓に行きたい。お母さん土曜日だし仕事休みだよね?」と聞いた。母はキョトンとした表情で私を見た。
「4月に行ったじゃない」
「学校の夏休みの宿題も兼ねて行きたいと思ったの」
母は「あーそうなんだ、わかった。じゃあ、明日お昼くらいに出ようか」と言ってきた。私は頷いた。
自宅から父の眠る霊園までは車で1時間くらいかかる。
次の日私は母の運転する車の助手席にいた。
「おかあさんとおとうさんはどうやって知り合ったの?」
「どうやってって、飲み会みたいな場で、紹介されたのよ、共通の知人がいたからさ」
「それで付き合ったの?」
「すぐではないけど、連絡先交換して、徐々にね。電話したりとか、食事とか映画行ったりとか、ライブを見に行ったりとかさ」
私は、「お母さんのバンドのライブを見に来たり」とかは言わないんだあ、という言葉が喉まで来ていたが黙っていた。
「大体ね、あなたが読んでいるような漫画のようなドラマチックな出会いなんかそうそう無いんだから!」と母は笑った。
そうこうしていると霊園に着いた。霊園の中は、等間隔で墓石が並んでいる。私はいつもどこが父の墓石かわからなくなって困った。
父の墓石の前で私はお線香を焚いた。そして静かに手を合わせた。
お父さん、ひとつ訊きたい事があります。私の本当の母親は誰ですか?少なくとも今私の隣にいる女は母親ではありません。
私は涙を堪え、心の中でそう呟いた。そして踵を返し出口へと向かった。母も同じように手を合わせ私の後を着いてきた。
自宅前で私は車を降りた。母は夕飯の買出しにそのまま行った。
自分の部屋に入ると、パソコンの電源を入れそのままベッドに倒れこんだ。
「真実は誰に聞けばいい?」私は天井に向かって呟いた。
陣内さんか?しかし陣内さんは母に近い人物だからきっと私にはコアなことは語らないだろう。
父方の祖母は2年前に死んだ、祖父は高齢で、ほとんど寝たきりの状態だ。母方の祖母も私が2歳の時に死んだ。いずれも私の1歳の誕生日には元気に集まってくれてたのに。
懇意にしてくれている伯父伯母はいるにはいるが、その人達に訊くなら、母親に直接訊いたほうが早いと思った。
私はパソコンのメールソフトを開いた。そしてプリンターの電源を入れた。
陣内さんが送ってくれた写真の一枚一枚の片隅には「3・15」という数字がある。この数字が何を意味しているのかわかる。「3月15日」に撮影したという意味だ。
バンドのラストライブはこの日に行われたことは間違いない。私が調べた「SLIDE」のライブスケジュールもこの日だったし、雑誌のライブ日程表にも「解散」という二文字が踊っていた。
なにより、父の日記にもその日に「Snug & raw」のラストライブに行ったと書いてある。
その数ヵ月後には私が頻繁に日記に登場しているし、翌年の4月2日に誕生日をやったとの記述もある。写真だって残されていて私のアルバムに入っている。
私が生まれたのはこの写真のライブの翌月の2日だ。
いくら中学生でもそれなりに性教育は受けてきている。このスレンダーな体系で、激しくステージで歌っている女から僅か数週間で私が生まれてきてるはずが無かろう。
しばらくすると、母が帰ってきた。私は5枚の画像をプリントアウトした。そしてバンドのCDと一緒に袋に入れた。もしかしたら母が激高するかもしれないと思ったので、父の日記はフロッピーに、私のパソコンの主要なデータは全てCDRにバックアップをした。
そして。
「お母さん、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます