第3話
結局のところ、ロダンの店長は思い出話はするものの、メンバーの消息までは知らなかった。
出演バンドが突然音信途絶えるのは珍しくないと言っていた。しかし、新宿の「SLIDE」というお店でも頻繁に出演していたという情報をくれた。私はすぐにそのライブハウスに向かった。
そこでも店長さんは優しく接してくれた。そして「WAR&GUNS」をやはり知っていた。しかも「そのバンドが解散した後、ギターのジンとうちの従業員とバンド組んでいたよ、良くここでライブやってたから」と言う。
私は驚いた。しかし店長さんは「でもジンのプロデュース業が忙しくなって、尻つぼみになったんだよなあのバンド」と言ってきた。
「プロデュース業?何かのバンドをですか?」と私は聞いた。
「うんstream outっていう6人組のボーカルグループなんだけどさ」
「ええ!私ファンですよ~CDも4枚全部持ってます!」
「そうなんだ、彼らを世に出した人だよ。陣内っていうの」
「じんない・・」
私は願ってもいない収穫を得た。そして丁寧に挨拶をして帰った。
やはりこのバンドで間違いないだろう。二人とも「スナッグ アンド ロウ」というバンド名に聞き覚えは無いと言っていた。
帰宅後、早速stream outのCDのブックレットを取り出し、プロデューサーの箇所を見た。たしかに「陣内 守」と書いてあった。
私は考えた。直接会って全てを聞くべきかどうかを。
悩んだ末、私はとりあえず、メールを偽名で出そうと思った。
とにかく「WAR&GUNS」というバンドを最近知ったファンです。今度ファンサイトとか作ってみたいです!。というような内容で送信した。
それから数日が経った。やはり返事は来ないのだろうか。
この数日、私は父の日記を読んでいて、どうしても腑に落ちない部分があった。WAR&GUNSのライブに父は足繁く通っているのに、母が一緒に行っていないということにとても違和感があった。
この日も何故なのか、考えていると私は眠気がさしてきた。時計の針は午前3時を回っていた。すっかり遅寝遅起きの習慣がついてしまった。
最後にメールをチェックして電源を落そうとしたときに、1件受信メールがあった。開いてみると、陣内さんからだった。私はゴクリと唾を飲み込んだ。
陣内さんからは、丁寧にありがとうという内容の文章に、簡易的なプロフも添えてくれた。
「バンドの成り立ちは、マリが20歳のときで私は25歳でした。彼女が短大を卒業とほぼ同時にライブ活動を始めました。活動から2年後にCDの作成をしました。その頃は雑誌などでも取り上げられ結構な集客もありました。結局出会ってから5年後バンドは解散しました。添付画像はそのバンドのラストライブの模様です。」
文章の後に画像が添付されていた。上から順にそれぞれのメンバーのステージショットがあり、顔が良くわかる構図となっている。
3枚目はボーカルの女性が腰に手をあてポーズを決めている膝から上のショット、最後は打ち上げの模様らしくやはりボーカルの女性がビールをカメラに向けて笑っているショットだった」
私は、ガタガタと体が震えてきた。マウスを持つ手が震え、背中には一瞬にして汗が湧き出た。
ヨロヨロと立ち上がりベッドに倒れこんだ。私は大の字になり天井を見つめた。
写真に写っていた、マリという女性ボーカルは紛れも無く「母」だった。
そしてこのバンドのボーカルが「母」であったのなら、父の日記の記述でこのバンドを「母と一緒」に見に行くという表記が無いのは至極当然だった。
恋焦がれている女のステージに足繁く通う男。いたって普通の光景だろう。
しかし、このパズルのピースが嵌まった瞬間、とある衝撃的な事実を同時に知ってしまった。
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