第17話 料理とゲーム

『今日の天気予報です』

『 ——地域では 曇りのち雨、ところによって 雷雨となる場合があります』

 画面越しのアナウンサーが淡々とした口調で話すのを 佐藤は見ていた。


 今日は雨が降るのか。

 それなら、いつものことをしないとな————


 とん、と音がしたため、佐藤は ハッと我に返る。

 見れば、料理をよそった大皿がちゃぶ台に置かれている。

「初めて作ったけど、なかなかの出来栄えじゃない!? 」

 皿を持ってきた人物、原川静香はやりきった、という風に長く息を吐いた。

 ちゃぶ台の側で座ってる佐藤剛は満足気に額を拭う彼女を見た後、台所の流し台で 手早くフライパンなどの料理器具を洗っている モヒカン不良を見る。


 結局、原川静香が何の料理を作るかと 考えあぐねているのを見て、このモヒカン不良が手を貸したのだ。

 いや、『手を貸した』というのは間違いか ————



 モヒカン不良は、原川静香の買った食材と調味料に全て目を通した後、食材を買った本人に聞いた。

「原川さん、なんの料理を作るか決めて食材買いました? 」

「ううん。自分の好きなのを適当に買っただけ」

「……」モヒカン不良は、食材へ目を移した。

「と、とりあえず、今あるもので料理はできると思うんで、俺、味見と調理を担当しますよ! 原川さんは野菜切ったりとか、皮むきとかの担当をお願いしてもいいすか? 」



 そして、モヒカン不良この男がほとんど料理を作った。


 原川静香はそれの下ごしらえをする形だ。

 おそらく、この不良は原川静香が料理ができないことを察して あの提案をしたのだろう。

 実際、原川静香こいつの下ごしらえの様子は、かなり危なっかしい動きだった。

 そのため モヒカン不良が原川静香に野菜の切り方などを指導していた。

 結局、原川静香のやったことといえば 盛り付けのみ と言っても過言ではない。


 ————そんなことを思いながら、佐藤は無言で料理を見つめている。

「佐藤、黙って見てないで。お皿並べるとか準備してくれる?」

「俺は食べない」

「はぁ!? 」

 その時、モヒカン不良は佐藤へ顔を向けた。

「おい、チビ野郎」

 不機嫌を隠すことなく佐藤は睨みつける。

 それに 不良の身体が 少し跳ねた。

 しかし、顔を痙攣らせながらも睨み返し、言葉を詰まらせながらも言う。


「じゃ、蛇口から 水が出なくなったぞ」


「は? 」


 原川が流し台に近づいて、水が出ないのかを蛇口の栓を捻って確認する。

「あ、本当だ。なんで出ないの」

 その瞬間 ————


「わっ」

 電気が消え、カーテンを閉め切っている部屋は少し薄暗くなった。


「なに……。なんで水が出ないし、電気消えるのよ…… 」


「おい チビ野郎! お前、絶対 公共料金滞納してるだろ!」

 何も言わず、佐藤は立ち上がる。

「佐藤、料金滞納してるの? 早めに払った方がい…… 」

 言いかけて 原川は口をつぐんだ。佐藤の様子が さっきと明らかに違った。

 ———— この雰囲気はUGFCの試合の、あの時と、似ている。


 ふいに、ドアチャイムの音が鳴った。

 ゆったりと、そして一定リズムで、ドアチャイムが鳴っている。

 鳴る……。

 鳴る……。


「たく。料金未払い分の徴収じゃねーのか? 早く払えよ」

 モヒカン不良がそう言いながら玄関のドアノブに手を伸ばす。

「いででででっ!? 」

 しかし、佐藤がその手を掴み、モヒカン不良の手を後ろ手に捻りあげた。

「て、てめ……ッ! 」

 騒ぐな、と言う代わりに 佐藤は捻る力を強める。


 ドアチャイムの音が止まった。


『ツヨシ君、聞こえますか? 』

 人間の声に近いが、どこか機械的なそれが ドア越しに聞こえてきた。

『今日は 原川静香さんもご一緒ですね』


『単刀直入に言うと、君と原川静香さんを 殺しに来ました』


「はっ!?」モヒカン不良と原川静香、2人の声が重なった。


 佐藤はドア越しの相手に聞く。

「一体、何のために……」

『これは合成音声です。あらかじめ録音されているものを流してるだけなので、返答はできません』

 佐藤は舌打ちした。交渉の余地はないようだ。


『抵抗せず 殺されてくれると、こちらとしては手間が省けるので、そうしてくれると助かります。しかし、君がUGFCのファイターである以上、そういうわけにはいかないでしょう。なら、大いにこちらを楽しませてくれたら嬉しいよ』


『では、ゲームスタート』

 その声が合図だった。


 高い衝撃音が響き、3人は窓側を見る。

 突然、窓が割れた。いや、割られたのだ。


 割った窓から、男が部屋に押し入ってきた。手には柄の長いハンマーを持っている。


「も、茂上 さん……?」

 確かに、見た目は間違いなく その兄貴だった。

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