第18話 襲撃者
畳の上に広く散乱したガラスの破片を靴で踏みしめながら、窓ガラスを割った人物はゆっくりとした動作で部屋へ侵入してきた。
その人にモヒカン不良は問いかけた。
「も、
佐藤に後ろ手に捻られていた手を解かれたため、不良は彼へと近づこうとしたが、すぐ足を止める。
モヒカン不良の兄貴である
口元から流れる涎を拭うこともせず、目だけを動かして辺りを見回している。
その挙動からは、茂上の面影などは感じられない。
「茂上、なの? 」
原川も同じく問いかけた。
瞬間、急に意識がはっきりしたかのように ぎょろりと茂上は 原川を見た。
そして、なんのためらいもなく原川の頭にめがけて大型のハンマーを振り下ろした。
「うぐ!? 」
それが畳にめり込んだ。
ハンマーがめり込んだ位置から 少しだけ離れた位置で原川が倒れている。
「ッつう……」
原川は蹴られたのだ。佐藤に。
茂上の動きに 反応した佐藤は、原川を蹴って攻撃を避けさせた。
そのため ハンマーの打撃を受けずに済んだのだ。
助けられた……。助けられたけれど、もっと他に方法があったでしょう!
そんな思いで原川は佐藤を見る。
当の佐藤は原川に意識を割けるほど余裕はない。
茂上を凝視しながら、考えを巡らしていた。
おそらく、外から水道と電気を止められたのだろう。
止めるためには、水道メーターの位置などを把握し、止め方も分かっていなければこのようなことはできない。
誰がこんなことを仕掛けたんだ?
殺す動機はなんだ?
俺と
佐藤は浅めに深呼吸をした。
完全に動揺している自分を、落ち着かせるために————
襲撃者の動機など考えることじゃない。
今すべきなのは現状の打破だ。
そう気持ちを切り替えた佐藤は、以前出会った時の茂上を思い出す。
前に会った時のモガミとは、全く別人そのものだ。
「一体どういうことなん…… 」
言葉を発した途端、茂上は佐藤に焦点を当て ハンマーを横に振る。
それを低く屈んで避けるのを見て、今度は頭へ狙いを定めるように 両手で持っているハンマーを自分の頭上へ振り上げた。
振り下ろされる直前に、佐藤は素早く茂上の懐に入り、ブレザーのシャツを両手で掴む。
そして 勢い良く背負い投げた。
「がぐッ」
ろくに受け身を取れずに叩きつけられて、茂上はそのまま動かなくなった。
「ッ……」
佐藤は足裏から伝わる感覚に顔を歪ませた。
素足に窓ガラスの破片が食い込んでくるのを感じる。しかし、佐藤は構うことなく大型のハンマーを茂上から取り上げた。
「佐藤、だいじょ……っわ! 」
立ち上がった原川に、佐藤は大型のハンマーを強引に押しつける。
「ちょちょ ちょっとこれ、どうすればいいのよ!? 」
「まだ襲撃者がいる。自分の身は自分で守れ」
「はぁ!? そんなこと……できるわけないよ! 」
「できないなら ここで死ぬだけだ。俺としては、人質や盾にされるよりも さっさと死んでもらった方が助かるけど」
「なっなにを」その後に続けて言いかけて、原川は言葉を飲み込む。
佐藤の足裏の出血が畳を赤く染めていることに気づいたのだ。
「原川さん! チビ
佐藤と原川は声のする方を見れば、モヒカン不良が玄関の扉に背を強く押し付けて必死に襲撃者の侵入を防いでいた。
扉は一定の間隔で重い音と鳴らす。
「早く抑えないとっ、このままじゃ……ッ!! 」
今までで一番大きな音と衝撃で、勢いよく扉は破られた。
モヒカン不良は扉と壁の間に全身を強く打ったのか、その間からずるりと身体が崩れ落ちる。
原川はモヒカン不良の無事を祈りながら、襲撃者に視線を向ける。
侵入してきたのは、2人だ。
「モガミの金魚の糞じゃねぇか…… 」
佐藤は ぼそりと呟いた。
路地裏まで尾けてきた、あの2人だ。
少なくとも外見は一致している。
しかし、彼らの様子は
口から涎を垂らしてぐるりと目玉を回している。
佐藤は長く息を吐き、姿勢を低く構えた。
どうすれば、切り抜けられる。
原川静香を守りながら、この状況を切り抜く方法————
「佐藤…… 」
原川の声に、襲撃者である2人はぴくりと反応を示した。
「私はねぇ…… 」
2人は目を大きく剥き、原川に襲いかかった。
「やる時はやるのよ……!! 」
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