第16話 兄貴達

 朝、佐藤 剛の部屋へ赤いモヒカン不良が訪ねてきた。


 しかし、佐藤の住むボロアパートの場所を このモヒカン不良が知るはずがないため、なぜ自分の部屋を知っているのかと 問い詰めた所、彼を気絶させてしまう。

 仕方なく 佐藤は 部屋でモヒカン不良を安静にさせたが、そんな時に原川静香が食材を持ってやってきた。


 何故、モヒカン不良は佐藤の部屋の場所を知っているのか。彼がやってきた目的とは。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


「あ、おい! 」

 佐藤の制止に耳を傾ける様子もなく 原川は部屋に入ると、彼女の目に真っ先に映ったのは身体を起こした赤いモヒカン不良だ。

「アンタ、茂上の…… 」

 原川は佐藤の方へ首を曲げた。

「なんで この人がいるのよ」

「俺が聞きたい」

 モヒカン不良は声に反応して2人の方を見る。すると、はっとした表情に変わり 立ち上がろうとした。

 しかし 身体がフラついて すぐに膝をつき、吐き気を覚えたのか、右手で口を覆う。

「だ、大丈夫!? 」

 原川が急いで食材の入ったビニール袋を置き 靴を脱いで、駆け寄った。

 佐藤も その後に続く。

 原川はモヒカン不良の背中をさすろうと近づいた。

「原川さん、背中さすんなくていいんで」

 そう制して、口を覆った手を離す。

 モヒカン不良は、佐藤が自分を見下ろしていることに気づいたようだ。彼は佐藤を見上げた。

「俺に何の用? 」

 佐藤は感情の篭っていない声でモヒカン不良に問いかける。

 モヒカン不良は唾を飲み込んだ後、口を開いた。


「兄貴達に 何をしたんだよ」


「どういうこと? 」

 原川がモヒカン不良に訊くが、彼は佐藤から視線を外さない。

「あんた達を路地裏までつけたあの日から 兄貴達2人と連絡がつかなくなってる」

「あれから まだ4日くらいしか経ってないんだから、考えすぎじゃない? 」

 モヒカン不良は原川へ視線を移した。

「昨日から茂上さんとも、連絡が取れなくなった。偶然にしては 嫌な予感がすんだよ」

 言い終えると、モヒカン不良は佐藤を睨む。どうやら佐藤の返答を待っているようだ。その様子に、佐藤は面倒臭いという顔をする。

「あいつらがどうなったかなんて 俺は知らないし、興味がない。それよりも なんで俺の部屋を知って———— 」

「テメェは兄貴達の居場所 絶対知ってるだろ」

 モヒカン不良は立ち上がる。

 佐藤は舌打ちをしそうになった。

 ————こいつは話し合いをしに来たわけじゃない

「兄貴達 2人がお前を追いかけてった後、黒いスーツの男を連れてお前が戻ってきた。その時には兄貴達はいなかった」

 あ、という言葉とともに 彼は思い出す。

「そういえば、黒服の男が『侵入者』がどーたらとか言ってたよなァ! 」

 モヒカン不良は大声を出すなり、佐藤の胸倉を掴む。

「その『侵入者』てのは、兄貴達のこと指してるんじゃねーのか!? 兄貴達は一体 どこにいるんだよ!! 」

 ————ただ、この男は自分の欲しい情報答えだけを求めてきたのだ。

「知らない」

 佐藤は動じる様子はなく答える。

「あいつらがどうなろうと、興味がない」

 佐藤の言葉に、不良は ぎり と奥歯を噛み締めた。

 このままでは 埒が明かないな、佐藤はそう思う。

 なぜ、自分の住む場所を知っているのか、それをどうやって聞き出そうかと考えを巡らし始めた時だ。

「よし、わかった! 」

 声のした方を2人は見る。


 2人の視線が注がれた 原川静香は 両手の平を合わせて音を鳴らした。

 そして、真剣な表情して言う。


「3人で ご飯、食べよう」


 男2人の頭に疑問符がつく。

「は、原川さん、何言ってんすか…… 」

 同感だ、と佐藤も言いたげなようで眉間に皺がよっている。

「ちょうど、食材いっぱい買ってきてあるから 料理つくるよ」

「いや、だから……」

「このまま 話してても、何も進展しないでしょう」

 たしかに、その通りではある。

 このまま話していても 何をしても このチビは何も話さないだろう————

 モヒカン不良は佐藤を一瞥した後、彼の胸倉から手を離す。

 それを見て、原川は2人を背を押して ちゃぶ台の側まで誘導した。


「じゃ! 2人は、座って待ってなさい! 」

 そう言って原川はスカートのポケットからスマホを取り出す。

「動画見よ、と」


「……」


 モヒカン不良は、原川を憂慮に堪えない顔で見つめた。

 その不良を佐藤は観察する。

 観察といっても 一瞬見ただけなのだが、しばらくは下手なことはしないと判断したようだ。

 佐藤は 表情のない顔で、ちゃぶ台の上にあったリモコンに手を伸ばし、

 テレビの電源を入れた。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇


「えー、と この場所でよかったですか? 」

 若い男は、ネックバンド式のワイヤレスイヤホンで通話している相手に聞く。

『あぁ そうだ』

「想像以上に薄汚いところで暮らしているんですねぇ、あの子」


 そう言いながら、若い男は薄汚れた建物を見上げる。

 それは廃墟とも言えそうな二階建てのアパート。


『ところで、あの3人は 本当に使い物になるのか? 』

「もちろんです。そんなに僕のこと信用できませんか? 」

 無言、それだけで 相手が自分を信用していないことが大いに伝わってくる。


 そんなことを頭の片隅で考えながら、特徴のない顔の若い男は口角を上げた。

「3人とも 強いて言えば 1人だけ、完全には作り直せていない子もいますけど、許容範囲内ですよ。そろそろ、行ってきます」


『失敗するなよ』

 相手は野太い声で短く伝えると、通話を切った。

 やれやれ、せっかちな人だ。

 そう 若い男は思いながら、後ろを向いた


「それじゃ、行くよ。3人とも」

 若い男の後ろには、ブレザーを着た人間が3人。


「UGFCの若きファイターと特別観客その同級生を、丁寧に潰してあげようか」

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