第11話 黒服の男と 金魚の糞と
◇◇◇◇◇◇◇◇
カビや埃で薄汚れた部屋。椅子やテーブルなどが置いてある。しかし、どれも長年使っていないため、どれも年代遅れの品物だ。所々塗料が剥げて錆び付いていたり、蜘蛛の巣が張っている場所があったり。
しかし、彼にそれを観察する余裕などなかった。
彼は 浅く呼吸を繰り返し、顔中から汗が滲み出ていた。
突如 軋む音が鳴る。
「ひっ」彼は怯え切った様子で、音のする方向を見た。
軋む音を立てながら 観音開きの扉を開けたのは、黒服の大男だ。
「様子はどうだ」
「あ、どうも 岩田さん。『特別観客』の案内は済んだんですか? 」
そう黒服の大男、岩田に訊ねたのは、特徴のない顔の若い男——全身黒い服装をし、さらには黒い手袋をはめている。
「一応な」
「あんまり仕事サボっちゃダメですよ。お仲間さんに怪しまれちゃいますから」
当たり前だ、と黒服の男は思いながらも言葉にはせず、鼻を鳴らした。
「そっちの方はどうだ」
「1人はできましたよ。もう1人は、これからです」
そう言いながら座りこんでいる男子2人を見た。
彼らは両手、両足をで拘束されていて、身動きの取れない状態にさせられている
その内の1人である細身の彼は、後悔していた。
なぜ、
なぜあの時、チビを追いかけたのかと、そうしなかったら ————
彼の隣にいる友達は、焦点の合わない目で なにかの歌を口ずさんでいる。
音程もリズムも 素っ頓狂な、そんな歌を口ずさんでいる。
意識が戻ったときには、友達は自分の言葉に反応せず、ただぼーっとしているだけだったが、時間が経つにつれて少しずつ少しずつ壊れていくのがわかった。
自分もこの運命を辿ることになるかもしれない。
それは、それだけは嫌だった。
彼は、言葉を絞り出す。
「なにが 目的なんだ」
「ん? 」
「なんでこんなこと、するんだよ」
あぁ、と若い男は 床に置いてあった黒い瓶を片手に取り、その瓶に指を入れた。
「君たちに協力してほしいことがあってね。そのために 君のお隣さんはそうなったんだよ」
「き、協力する……!なんでも協力するから! コイツみたいにはしないで……! 」
お願いします、彼は、細身の身体を震わせながら頭を下げ、懇願する。
黙って黒服と若い男は見ていたが、不意に若い男が笑い、瓶に入れた指を出した。
「まぁ、顔をあげてよ。君の気持ちはわかった」
助かった……。安堵から息を吐き、細身の彼は顔を上げた。
しかし、突然 鼻を摘まれる。驚き 口を開けた瞬間、若い男は瓶に入れていた方の指を口に捻じ込んだ。
「君の気持ちはわかったけど、そのままの君 じゃ協力できない。大丈夫。君達は大事に使わせてもらうよ」
そう 若い男は微笑んだ。
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