第9話 黒色のチャイナドレス
最終試合が終わり 薄汚れた舞台裏。
佐藤 剛と原川 静香、2人を見ながら黒服の大男は言う。
「主催者がこの娘と会いたいとのことだ」
「は? 」
佐藤 剛の眉間に皺が寄る。
「そんな話 聞いてないぞ 」
「ここのクラブは会員制だ。一般人をただで帰すわけがないだろう」
黒服の男は不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「まさか、普通に帰すとでも思ったのか? お前はUGFCのファイターの癖に認識があまっちょろい。あの人の息子だというのにな」
ぎろり と、佐藤は黒服を睨んだ。
「あいつは関係ねぇよ」
黒服の男は黙って佐藤を凝視している。
「ちょっと! 当事者置いてきぼりで話を進めないでくれる? 」
原川は、男2人の間に割って入った。
「私は会いたいんだけど、その主催者に」
佐藤は半ば呆れたような顔をしている。
「だって、どんな主催者か 気になるじゃない」
そう彼女は笑ったが、佐藤の視線の先が自分ではないことに気づく。
「あら、そう言ってくれて とても嬉しいわ」
背後から声をかけられて、原川は振り返る。
その人物は程よく引き締まった
長い金髪を後ろにまとめていて、赤いピンヒールを履いている。
黒色のチャイナドレス着た男が立っていた。
「はじめまして、原川 静香さん。あたしがここのクラブを主催している メイよ」
なぜ この
メイはそんな彼女の様子など気にも留めず、近づいていく。
「それにしても、チャイナドレス とっても似合ってるじゃない。貴女には赤い色が似合うのね」
原川と同じ目線に顔を近づけて、ふふ、と笑った。
メイの顔の近さに、原川は視線を泳がせる。
「こんなところで立ち話はよくないわよね。場所を変えましょう」
そう言いながら、黒服の男に目配せをした。
「こっちだ」
黒服の大男はそう原川に呼びかけると トンネル状の通路へと向かう。
原川は男の後についていこうとしたが、立ち止まり振り返った。
「佐藤」振り返った彼女の顔は、笑みを浮かべている。
「アンタ、めっちゃ強いんだね。びっくりした」
また後でね、軽く手を振ると 黒服の後をついていく。
通路へと入る2人の背中に向けて「あとで合流するわ」とメイは言った。
「おい」
声の主である佐藤は鋭い目をメイに向けている。
「どういうことなんだ。説明しろ。原川 静香をこっち側へ引き入れるつもりか? 」
メイは肩をすくめた。
「貴方が 暴行を働いたのがいけないのよ。
冷たい目を向けられ、佐藤 剛の肩がビクッと震える。
「しかも、人目のある時間帯、ここから近い場所でね。貴方が
「貴方から『同級生に絞め技見られた』て 言われた時は 本当に驚いたわ」
剛は メイと反対方向に眼球を動かした。
「周りに言いふらしてる様子はないから 大丈夫だろ」
メイは下を向いて大きく溜息をひとつ吐いたあと、もう一度 剛の顔を見る。
「もう少し立場をわきまえた行動をとりなさい。貴方は あたしの息子である前に、UGFCのファイターなんだから。自分が
「当たり前だ」
剛はその言葉を遮った。
「俺が 闘う理由を忘れるわけがねぇだろが」
静かに、確かな怒りを感じさせる声音で 剛は目を剥いている。
しばらくその様子を眺めていたメイは「そう」と短く返事をして剛から視線を外した。
少しの間が空いてからに「行動には、気をつける」と剛は言うと通路へと向かおうとする。
「待ちなさい。静香ちゃんのことはどうするのよ? 」
馴れ馴れしい呼び名になったということは、やはり 原川 静香をこっち側に引き入れるということか と佐藤は思った。
「あいつの処遇はあんたに任せる」
「丸投げしないの! 」
立ち止まった剛に歩み寄る。
「ここの説明は あたしからあの子にしておくわ」
それと、とメイは付け足す。
「説明が終わったら、貴方が静香ちゃんの面倒を見なさいね。あと、静香ちゃんへの説明は 貴方の控え室でするから。よろしく」
そう言うと、メイは剛の前を歩いていった。
剛はムッとした表情をする。
しかし、原川 静香のことは 自分でまいた種だ。仕方がない、と剛は自分に言い聞かせて メイの後に続いた。
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