第6話 衣装
佐藤と別行動になった原川 静香は、黒服の大男と共にUGFCの会場があるビルの通路を歩いていた。通路に沿うようにいくつも部屋がある。雰囲気は安いビジネスホテルのそれだ。
「いつになったら会場に着くんですか? 」
原川はムッとした表情で黒服の大男に訊ねた。
「ボディチェックは済んだでしょ? そろそろ会場入りたいんですけど」
前を歩く大男に対して聞いているが、返事はないため 原川 静香は言葉を続けた。
「ボディチェックって名目で
そう言って原川は腕を組む。
その格好は、真っ赤なチャイナドレスだ。
そのドレスはタイトなもので身体のラインがハッキリと出ており、裾には深めのスリットも入っている。
「ここまでして、
ピタリと大男は動きを止めた。
「これは子供のお遊びじゃない。口の利き方には十分に気をつけろよ。小娘」
黒服の男は目の端で原川を睨む。この大男に睨まれれば、並の男では怖気付いてしまうだろう。
しかし、彼女は笑みを浮かべた。
気圧されてはいるようで、額に汗が滲んだいるものの、腕を組んだまま笑っている。
「そうでなくっちゃ、面白くないのよ」
大男は彼女から視線を外すと、右隣の部屋に近づいてドアをノックした。
すると、ひとりでにドアが開く。その先は部屋ではない、人が10人程度は入れるくらいの薄汚れた壁の空間があるだけだ。
「中に入れ」
大男の指示に従って原川はその空間に入ると、大男もその空間に入る。すると、ドアが自動的に閉まった。なにか機械的な音がし始めたと同時に、原川は身体が浮くような感覚に襲われた。
これはエレベーターで、地下に向けて動き出しているのだ。そう原川が気付くのに時間は掛からなかった。
機械音が止まると同時に、エレベーターが開いた。
原川の目に映ったのは、明るく広い地下空間と沢山の人々だ。人々は何個もある丸いテーブルを囲み、グラスを片手に立って談笑している。
服装はスーツやドレスで着飾っていて、彼らが富裕層だと 原川はすぐにわかった。
「UGFCの会場はこっちだ」
黒服の男の後をついていく。その途中で原川は若い男に声をかけられたが無視を決め込んだ。
若い男は食い下がろうとしたが「やめときなさい」と隣にいた初老の男性に止められた。
「あれは、あっち側の関係者だよ」
「なぜわかるんです? 」
「黒服に連れられているし、チャイナドレスを着ているからね。UGFCの主催者という人も、ああいう服を着ていたんだよ」
黒服の大男が一番奥の鉄扉の前にくると、扉を開けた。
さっきの場所とは打って変わって、薄暗い。しかし、一点だけ大きくスポットライトが当たる場所があった。
ライトの下には円柱型のケージがある。
そのケージの中で上半身裸の2人の男が素手で殴り合っていた。
素手で殴り合っているためか、2人の顔には殴り合いによる生々しい痣ができていた。殴り合うたびに血と汗の混じった体液が飛び散る。
その様子に原川は口を手で覆った。
よく見れば、男2人が戦うケージの周りには椅子が設置してあり 人が座っている。
まるでケージを円卓のようにして、彼らは座っている。
「これが UGFC、アンダーグラウンドファイトクラブだ。小娘」
大男は平然と彼女に言った。
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