第5話 黒服の大男

 歓楽街の路地裏、金属バットを持っている不良2人の前には、黒いスーツの大男が立ち塞がるように立っていた。

 その大男の後ろにいる、パーカーを被った小柄な少年は不良2人を見ながら、言う。

「こいつら 侵入者だ」

 何かが起きる。その恐怖が不良2人を突き動かしたのだろう。大男に向けて、バットを振りかざした。



 ◇◇◇◇◇◇


 原川 静香はモヒカン不良の背中をさすっていた。彼女の顔は不機嫌にむくれている。

「大丈夫? 」

 原川はそう声をかけたが、未だに悶えたままで苦しそうだ。


「おい、原川 静香」

 佐藤が曲がり角から戻ってきた。声をかけられたので 原川は佐藤を睨むように顔を上げたが、その瞬間、身体を硬直させた。


 隣に黒いスーツの大男がいたためだ。

 その背丈は2メートルはあるだろう。また身体つきもどっしりとしていて、顔は岩のようにゴツゴツしている。その大男はおもむろに口を開いた。

「ツヨシ、この娘がか? 」

 その問いに「ん」と佐藤は頷く。

「この男は? さっきの2人と同じ侵入者か? 」

 さっきの2人、というのは 茂上の金魚の糞である2人のことだろうと 原川はすぐに察しがついた。

「違うけど」

「だが、制服から見て同じ学生のようだが……」

「偶然こっちに迷い込んだんだと思う」

「本当に さっきの2人とは無関係なんだな」

 大男は、どこか凄みのある声で佐藤に訊いた。

「あぁ」

 当然のように佐藤は答える。少しの間の後、大男は「そうかい」とだけ言うと元の場所へ引き返していった。

 その様子をただ固まって見ていた原川に、佐藤は視線を送る。

「行くぞ。原川 静香」

「あ、でも、この男子……」

「ほっとけ」佐藤も黒いスーツの男の後を追うように歩き出す。原川の口から抗議の言葉が出かかったが、ぐっと 堪えた。

 原川は少し考えるようにモヒカン不良を見た後、佐藤 剛の後をついていこうと歩き出した。



「ねぇ佐藤、さっきの黒いスーツの人、あれ何よ。見張り? 」

「あの黒服は門番」

「門番は見張りとは違うの?」

「一応違う。見張りはアーケードから路地入る前に居る」

「ふーん……」

 ——そんな人いたかな。路地に入る前に居たのは男の警察官くらいだったけれど……。そう原川が頭を巡らしていると、「着いたぞ」と佐藤は立ち止まった。

 見れば、だいぶ年季の入ったホテルの裏口だ。

「ここから別行動だから」

「え?」

 それを合図にしたかのように後ろから腕を掴まれた。

 原川の腕を掴んだ人物は、さっきの大男だ。

UGFCユー・ジー・エフ・シーの会場につくまでにボディチェックとか諸々あるから」

「は!? 聞いてないけ ———」

 大男の手で口を塞がれて、原川はくぐもった声しか出せなくなった。


「それじゃ」

 佐藤が照明が点いていない裏口の中へと姿を消した。

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