第4話 金魚の糞

「アンタ、道に迷ってるよね?」


 原川 静香は、佐藤に再度聞いた。

 歓楽街の一角であるアーケードから続く小道から 入り組んだ路地裏を進んで、UGFCユー・ジー・エフ・シーの会場へ共に向かっていた彼女は呆れ顔だ。

「同じ所ぐるぐる回ってさ。方向音痴とか? 迷ってるなら元の道の戻り方くらいなら分かるよ」と原川は半目はんめにながら訊くと、佐藤は振り返る。


「いや、招かれざる客」


 すると、先ほど曲がった角から1人、2人、計3人の若い男が姿を現した。

 原川はぎょっとして彼らを見る。

 男達は3人のうち、2人は金属バットを片手にしていた。

 3人とも一様に制服ブレザーを着崩している。その制服に 佐藤は見覚えがあった。


「お前の客じゃねぇか。原川 静香」


 ビクリと彼女の肩が震える。

 彼らの制服は、昨日 原川に刃物を向けていた男子の制服と同じ物だ。

 一呼吸の間をおくと彼女は口を開く。

「な、なんの用よ。茂上モガミ手下たち金魚の糞

 あの刃物を持ち出した男子は『モガミ』というのか、と佐藤は思った。

「今は原川サンの隣のおチビ君に用がある」

 コン、コンと 1番身長が高い細身の不良が金属バットで地面のコンクリートを軽く叩きながら佐藤を見つめた。

「よくもウチの茂上モガミさんを締め落としてくれたなコラ!! 」

 金属バットを持っていない、1番背が低く小柄な赤いモヒカンの不良が威勢よく声をあげた。小柄とはいえ佐藤よりは身長がある。

 そのまま佐藤へと近づいていき、顔を突き合わせた。

「シャバ僧の癖にいきがってんじゃねぇぞ!」

 佐藤の眉間に深く皺が寄る。

「テメェ聞いてんのか!? おい!! 」

 赤いモヒカンの毛先が佐藤の額に当たった。

「顔を近づけるな。暑苦しい! 」

 語尾と同時に 佐藤はモヒカン不良の鳩尾みぞおちに一発入れる。「ぐっ〜〜!」その一撃で不良はうずくまって悶え始めた。

 その様子に 慌てて原川がモヒカン不良へ駆け寄り「大丈夫? 」と声をかけたが、悶えているばかりで言葉はない。

「おー、やるじゃん! おチビ君」

 それに呼応するように口笛が鳴る。口笛を吹いたのは、もう一方の金属バットを手にしている大きな腹をした不良だ。

「んじゃ、始め ——」

「待った。お前らコイツのこと心配しないのか? 」

 そう言って、佐藤はモヒカン不良を指差した。

「そのうち ゲロ吐くかもしれないぞ」その言葉に反応して原川は厳しい眼差しを向けたが、彼は意に介していないようだ。


 金属バットを持つ2人は少し視線を合わせた後に細身の男子が鼻で笑った。

「そいつはただの弱小パシリだからな。消耗品と同じだ」

「わざわざ消耗品そんなのを気にしてるヤツはいねぇだろ? 」

 そう言いながら彼等は歩み寄ってくる。


 それを見た佐藤は後ろを振り返り、走った。

「逃げんなや!! 」

 原川とモヒカン不良を通り越して2人は佐藤を追う。

 佐藤が角を曲がったのを見て その後を追い、曲がったが、その瞬間 目に飛び込んできたのは、黒い壁だ。


 見上げれば、黒いスーツの大男がまるで壁のように立ち塞がっていた。


「何か用か? 」静かな物言いだが、明らかに声は野太い。

「い、いや、あ…」

 さっきの威勢は消えて しどろもどろになっている2人は、大男の奥にいる佐藤の存在に気づく。

 佐藤は冷たい目を彼らに向けながら、呟いた。

「こいつら、侵入者だ」

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