第3話 佐藤 剛の家
佐藤 剛の家についていけることになった原川 静香だが、その代わり 佐藤はある条件をつける。
それは「今日の
なぜそんな条件をつけるのか、意図がわからない原川だったが 佐藤の後ろをついていくことにした。
「UGFC」とは一体何なのだろうか、と疑問に思いながら……。
————————
このボロボロな二階建ての建物はなんだろうか、と原川 静香は思っていた。
「ねぇ 佐藤、なんでその建物に向かうの? 」
「俺の家だから」
原川は絶句した。
原川 静香の目には、どう見ても佐藤 剛のアパートが廃墟のようにしか映らないようだった。
しかし、廃墟のように見えるのは佐藤の家だけではない。
隣接する建物全てが原川にはそう見えている。
ここは原川にとって、あまり来たことのない地区ということもあるかもしれないが、綺麗な家で住んできた彼女からしたら、今まで見たことのない異様な景色に動揺しているようだった。
「人類がこんなところで生活できるとは思えない……」
「原川 静香」
ボロアパートの階段の前で、佐藤は立ち止まり、振り返った。
「引き返すなら今のうちだぞ」
それだけ言うと、佐藤はカン、カンと音を立てながら 階段を上り始める。
原川はこれから踏み込む未知の領域に立ちすくむ様子を見せたが、大きく息を吸う。スクールバッグの持ち手をギュ と掴み、彼女も階段を上り始めた。
二階に上がると、階段から離れた端っこの部屋で佐藤は立ち止まり、鍵を開けた。
「ここで待ってろ」
「え、ちょっ……」
軋む音を立てて扉が閉まる。
このチビ何様よ。このまま帰ってしまおうか、という考えが原川の頭によぎったが、短く息を吐き出し スカートのポケットにしまっていたスマホを手に取る。
その時、隣の部屋のドアが開き、人が出てきた。
ゴツゴツとした石のような顔に大きな刺青を彫ったスキンヘッドの男だ。
お互いの視線があう。
「…………」
「おめぇ、オレに用があんのか? 」
スキンヘッドの刺青顔の男は訝しげに原川を見た。原川から見たら、恐ろしい形相に見えたようだ。
原川はかぶりを振って否定し、人差し指を佐藤の部屋に向ける。
すると、刺青顔の男はかなり驚いたのか目を丸くする。
「おめぇ、チビ坊の女か! 」
「チ、チビぼ……? 」
「ちげぇよ。クソジジィ」
音を立てドアが開き佐藤が出てきた。
「よぉ! チビ坊!」
そう言って、刺青顔の男の佐藤に向かって片手を上げる。
「チビ坊、よかったな! こんな
「ちげぇから」
「じゃあ、セックスしてから付き合うかどうか決めんのか!」
二人の空気が変わるのに気づかないのか、刺青顔の男は話を続ける。
「いいかチビ坊! 男はXXXの大きさじゃねェぞ! 大事なのはテクだ! テクニック! 」
「だから コイツは……」
「テクとしては まず攻めるのはXXXからだ! で、XXXXから触る! もちろん触り方も大事だ!X越しにXXXXを全体XXXすようにXXXX……」
佐藤は呆れかえった顔をしている。最早この弾丸下ネタトークを止めるのも億劫になってしまっているようだ。
「黙れ」
刺青顔の男と佐藤が、原川の顔を見る。
原川は怒りの表情で刺青顔の男を睨む。
「私の前で! そんな卑猥な話をするな! この
言いたいことを言い終えたところで 我に返った原川は、サッと佐藤の後ろに隠れた。
その様子に刺青顔の男は 吹き出し、豪快に笑い出した。
「お嬢ちゃん なかなか威勢のいい声出すじゃねェか!」
ひとしきり笑い終えた刺青顔の男は「じゃあな、おふたりさん」と、アパートの階段を降りていった。
「あれ、アンタの隣人なの?」
原川の問いに佐藤は頷く。
「マジか」原川は がっくりと膝に手を置いた。
「原川 静香、ここで疲れてたら 身が持たねーぞ。」
原川は驚いて佐藤を見る。彼は部屋で着替えていたようだ。上は無地の紫色のパーカー、下は黒のジャージというラフな格好で、もちろんその顔に眼鏡はない。
彼はパーカーのフードを被る。
「これから会場に行く」
「会場、て?」
「UGFCの会場だ」
そう言うと佐藤は階段の方へ向かう。
「あのさ 、
佐藤がさっさと階段を降り始めたため、原川もその後をついていく。
「ちょっと、聞いてる? チビ坊」
佐藤はムッとした表情を向ける。
それに対して原川は少し口角を上げた。
「私に何かあったら、許さないからね」
原川は 今からどういう世界へ踏み込むか よくはわかっていない。
しかし、安全と呼べる場所ではないことは わかっているようだった。
錆びれた狭い路地を抜ければ、アーケードに出る。
原川が他校の男子と揉め、その男子が佐藤に絞め落とされた あのアーケードだ。
佐藤は真っ直ぐ その中心へと向かっていく。
アーケードの中間にある交番前に一人の男性警官が立っていた。
警官が「こんにちは」と にこやかに声をかけてきた。
「ど、ども」原川は落ち着かない様子で答えたが、佐藤は警官を無視して交番の横から続く路地に入る。
進むうちに路地ではなく、路地裏へと景色が変わる。
周りの建物は、アーケード内の建物よりも何倍か高いものに変わった。
見上げれば 空が狭まって見えるだろう。
建物には無数の配管が張り巡らされている以外、ビルの裏口に設置されているダストボックスかゴミ袋くらいしかない。そんな路地裏が蟻の巣のように繋がっていて迷路のようになっている。
慣れない人が入れば 方向感覚を失うような路地裏。
そんな道を佐藤は迷いなく歩いていく。
「佐藤……」
佐藤は原川の方へ振り向いた。彼女は不安げに佐藤に見ている。
「今更 怖気付いたのか? 引き返したい、て言っても無理だからな。ノコノコついてきたお前が悪い」
「別にそうじゃないわよ」
原川は呆れた顔をした。
「アンタ、道に迷ってない? 」
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