#エピローグ:……僕よりダメな奴に、会いに行く。

 マイアミからの直行便は無かったので、サンフランシスコを経由して、一路、羽田へ。乗り継ぎを含めると約二十時間ほどのフライトを経て、僕は故郷の国へと帰ってきた。


 結局、僕はサエさんとの世界一周旅行ではなく、ひとりで気の向くまま、様々な国を巡る旅を選んだ。武者修行……というと語弊があるかもだけど、とにかく、頼るものが無い中、未知の世界で、自分自身と向き合いたかった。


 あれから二か月。年末年始くらいは帰ってきなさいよね、というサエさんの言葉は相変わらず素っ気なかったけど、さすがに僕もそこまで野暮じゃない。早々に仮宿を引き上げ、一度、日本へと帰ることにしたのだった。少しは逞しく成長したはずの、自分を見せに。


 以上が、僕が幻想の中で描いた、未来予想図だ。


「……ムロトよぉう!! パスポートは一週間くらいかかるぜぇ、ま、東北一巡りするくらいには出来上がってんだろうからよ、付き合えっつーの、つーのつーの」


 ごついフレームに囲われた助手席で、既に出来上がってるんだろう赤黒い顔の丸男をうんざりと眺めながら、僕は真顔のまま、後部座席に半ば無理やり座らされていたわけで。


 晴れ晴れとした気持ちの良い風を浴びながら、しかし僕は何故また東北への旅へと同行、いや拉致されているのだろうと、心は澱んだままだった。


 溜王戦から三日後、パスポート申請をしてきた正にその直後、待ち構えていたかのように、京王プラザホテルの前でクラクションを盛大にならされるや否や、またド派手な真っ黄色のコートに身を包んだ金髪の巻き毛のオカマに、真っ赤な色をしてるけど、軍用車みたいな無骨な四駆に、無理やりに乗せられたのであった。


 例の三人だった。やっぱ男の夢はジープだよなあ、と運転席で脂ぎった長髪をたなびかせながら言ったのはやっぱりアオナギだったわけで。なぜ僕を巻き込んだ?


「……まあ、何というか、このクルマ買ったら、俺と相棒はすっからかんでよう」


 僕はすかさずドアを開けて飛び降りようとしたが、どうやってもロックは外れなかった。


「ダメですよ!! このお金は僕の人生を良き方向へと導くだろう、大切なものなんですから!!」


「……カネなんざ、所詮、手段よ。また、出りゃいいじゃねえの」


 瓦解した元老院は、アヤさんのもと、再構成されると聞いたけど、僕にはもう関係ない!! (はず)


「っ助けてください!! っ助けてくださぁぁぁいっ!!」


 必死で道行く人や、通りすがる車に叫ぶものの、皆一様にタチの悪そうな面々を一瞬見やってから、目を逸らしていく。


「タッちゃんに戦勝報告しなきゃだし、まだまだ東北にはいろいろな幸が眠ってるのよぉん。喰らい尽くさない、手は無い」


 ジョリーさんが隣で化粧を直しながら言うけど、Nooooooooooぉぅっ!!


 僕の心の叫びを置き去りにして、快晴の中、屋根の取り外された車は、快調に北へと進路を取るのであった。


 ……結局、僕らはダメな感じを引きずったまま、これからも生きていく。


 でも、人間って、多かれ少なかれ、そんなもんだよね?

 僕はもう知っている。だから、もう気にしない。

 

  そしてパスポートが出来たのなら、今度こそ絶対会いに行くんだ。


 ……世界中の、愛すべきダメ人間たちに。




 ダメ×人×間×コン×テス×ト  完


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