#207:紆余曲折な(あるいは、還り行け、カメリア)
カワミナミさんは、トーナメント的には、僕らとは別の側の山だ。ゆえに相まみえるのは決勝と思っていたわけだけど、ええ? 負けたんですか!?
僕はカワミナミさんが事あるごとに言っていた、僕と、この僕と戦いたいと強く願っていたことを思い出してしまうわけで。何だろう、胸の辺りが締め付けられるような。如何ともしがたい感情に揺さぶられそうになる。
「元老の……妨害なんですか?」
そうとしか考えられないけど、僕は怒りを押し殺してジョリーさんに尋ねる。
「……清々しいほどの露骨さだったわよぉん。何もさせずに、圧倒的物量で押し切った、そんな感じだったわぁん」
ジョリーさんの表情も冴えない。元老が露骨に来るってことは、相当なあからさまだったのだろう。カワミナミさんは……無事なのか?
「すぐに担ぎ込まれてくるはずよぉん。だからお願い。励ましてあげてよぉん」
ジョリーさんに言われるまでもなく、まずは労わないと。だけど、そんなに事態は甘くは無かった。この、「救護室」? がにわかに慌ただしくなってくるわけで。
「……」
カワミナミさんはストレッチャーに乗せられて運び込まれてきた。全身がぐしょ濡れだ。おそらくはペナルティー、と思われるけど。憔悴しきった様子で、カワミナミさんは僕の方を見やってくる。
「……少年、すまない……」
掠れた声。それ以上喋っちゃ駄目ですよ!! 僕は慌ててその枕元に近づく。そしてひとまず労いの言葉をかけようとするけど、
「少年……ふ、伏兵に気を付けろ。まんまと……やられた」
力無くそう告げてきたカワミナミさんの忠告に、僕の思考は中断してしまう。僕らの心配をしている場合じゃないですから!! と、部屋の外がざわざわしたかと思うや、アオナギと丸男の二人が勢いよく入ってきたわけで。二人とも見たこともないような険しい顔をしている。
「……少年、塩梅はどうよ」
感情を押し殺したかのようなアオナギの声が響く。
「大丈夫だ。体は。それよりも……」
その後の言葉を継げずに、とうとうカワミナミさんは片手で顔を覆ってしまった。ややあって、
「……君らと戦えず……無念だ」
その一言に尽きたのだろう。カワミナミさんはそれきり歯を食いしばったまま、必死で感情のうねりを堪えているかに見えた。
「……まあ、またの機会ってやつがある。今は少し休めや」
アオナギの自然体な言葉に、カワミナミさんの嗚咽を噛み殺している声が重なる。しばしの間、室内に沈黙が降り落ちた。
「……」
何も言えない雰囲気……そんな中、カワミナミさんはふっと息をひとつ入れると、次の瞬間には、体を何事も無かったかのように起こす。
「シャワーに行ってくる。面倒かけた」
いつも通りに戻って、部屋をすっと出て行った。流石に切り替え早いな。でも何か決然とした表情を秘めていたけど。大丈夫……かな。それにしても圧倒的な力を誇るカワミナミさんを破った敵とは?
いったいどれほどのものなのだろう。ここに来て、元老の本気が出て来たのか? にしてもやるしかない。まずは次戦、かますしか、無いんだ!!
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