#206:以心伝心な(あるいは、振り返り回)
やっぱり、いつぞやのサブミッションパレードの続きだった。薄れゆく意識の中だったけど、四十八手のその全てを今回で制覇したと思われる。
「……」
強烈な痛みは伴ったものの、伸ばされる所は伸ばされて、何というか、体がじんわり熱く、それでいて軽やかになった感じ。頭にも血が巡ってきたようだ。先ほどの対局時よりは、物事を考えられるようになっている。もはや行きつけになっている医務室のベッドの上で、僕は寝転がりながら、濃ゆい一日を振り返っていた。
決勝一回戦、メゴ・カオ・リポの元老三人娘とのスライドバトル。戦略やDEPでは完全に負けていた必至状態からの、起死回生の僕のヴァイブレティック=キャノナーヴォイス。今思い返してみてもあの能力を失ったのは痛すぎる……でもあのままだったらきっと僕はこの戦いから降りていただろう。そしたら今の僕は無かった。だからいいんだ。そう思おう。
「……何考えてるか当ててあげようか、エロい事」
と、隣に寄り添いながら、少し顔を持ち上げて僕の目を覗き込んできたサエさんが、いきなりそんなドスで腹を貫くようなことを言ってくるけど、そんなわけないじゃないですかぁ~。
決勝二戦目は、タメイド率いる執事三人衆。これはアオナギVSタメイドの真摯な戦いが印象深かったけど、シバ=ンシを沈めた阿修羅像くんのでんきタイプ最大級奥義、サンダーボルテッカ=エレキテリックワンハンドレッドイヤーズキラー、ヤブ=シを悶絶させたほのおタイプ最大級、バヌアツ=ガッ=フィンガー……思い出すだに恐ろしい仕置きの事がそれを上回って僕の脳裏には焼き付いている。あの二人は今頃どうしているだろう……まあそれはどうでもいい事か。
「……ねえ、エロい事考えている時のムロトの鼻ってぴくぴくするのね」
いや、考えてないですよ。あの拷問みたいな仕置きをそういう目で見られるような境地に僕は至っていないわけで。至りたいわけでもないですけど。
そして決勝三戦目が、翼だ。何年振りかに会ったのに、結局話せたのは対局場の足場の上と、ここ、医務室で交わした言葉のいくつかだけだったなあ……でも、その全てが僕の頭に、胸にこびりつくかのように残っている。そして僕の不発のカミングアウトの事も。まああれは今や完全に吹っ切れてますけどね。あははははは。
「何かを悟ったかのような遠い目をしてても……ムロトの目はエロさを失わないのね……」
わかった。エロいエロいと僕を焚きつけてきて、さては誘っているな? 横たわったサエさんの悪戯っぽい目に目を合わせる。……そのまま目を閉じつつ近づいていく僕たちだったが、
「大変よぉおんっ、ムロっちゃああああんっ!!」
いきなりのドラ声に、がばりと跳ね起きる。そこには入り口から飛び込んできた、血相を変えたジョリーさんの姿が。ど、どうしたんで!?
「……ジュン坊が負けたのよぉん!!」
か、カワミナミさんがっ!? 一体……何が?
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