#208:栄枯盛衰な(あるいは、ライドオン!ピーポー)
たっぷり一時間ほどの休憩があって、僕らは再びグラウンドへと、戦いの舞台へと向かう。
溜王戦決勝トーナメントも、第9戦を迎えた。トーナメントの最下層から薄氷の勝利を積み重ねてきた僕たちにとっての、準決勝ということになる。
既にもう一つの山の勝者……決勝への勝ち上がりチームは先ほど決定している。元老による超絶ハンデやら妨害を駆使しただろうけども、強豪 (のはず)カワミナミさんチームを屠ったその実力はかなりのものなんじゃないかと、そう勘ぐってしまう。
いやいや、そんなこと考えるのはあとあと。今は目の前のこの準決、目の前の敵に、全てを突っ込むしかないわけで。
「第9試合は、チーム1、VS、チーム19っ!!」
実況はサエさん。紫のボディースーツに、手には、柄の片端にマイク、反対の端にぴらぴらの革の短冊のようなものが幾つも分岐した鞭……という変わった得物を携えているけど、何ですか、それ。
「さっさと始めるんだからねっ!!」
キャラ付けは忠実にやってはいるものの、どうやら本当に不機嫌な感じだ。元老のやり方に、何かしら思う所があるのかも知れない。
戦いの場はいつもの内野側、突貫で設えられた恒例の「舞台」が鎮座している。今回のは……何というか見たことあるような。先ほどのロボティックバトルで使用した、黄色味がかった透明感のあるアクリル足場。縦横25m四方の、将棋盤のような枠線の入った……うん、これさっき使ったやつだぁー。
ついにその湯水と思われた運営の予算が尽きかけている……っ? いや、でも大会途中で尽きることなんてあるのかな。立てよう? 見通しを。
「……」
周りぐるりを取り囲むのは、やっぱり先ほどの「水路」。ここに相手を落とすということもたぶん、同じなんだろう。ただし今回はロボット達の姿は見当たらない。じゃあこのだだっ広い所で一体何をやるんだろう。と、
「え……?」
水路のさらに外側、表彰台のような一段高いところにスタンバっていたサエさんが、慌てて駆け上ってきた黒服のひとりに、何やら耳打ちをされている。その顔が困惑に変わるけど、一体何が。
「……チーム1に、メンバー変更があります。本来、大会開始から終了までは、メンバーの交代は認められていませんが、今回は元老特例とのことで、ご了承ください」
ええー、またそれー。会場の観客たちも不穏そうにどよめいている。ただ、そう告げつつも、サエさんの表情は憮然とした感じだ。不本意……なんでしょう、たぶん。
「……」
僕らは舞台横に付けられた3mほどのタラップをうんせうんせと上って、アクリル足場のステージへと上がってきたけど、対戦相手の姿はまだ見えない。どうせまた派手な紹介付きで登場するんだろう、元老めっ……!!
「ええ? でもこれって……これでいいの?」
そのステージの左脇、怪訝そうに小声で黒服に囁いているサエさんだが、どうしたんだろう。そんな中、恒例の重低音が鳴り響き、華々しいBGMが流れ出す。
「……それではチーム1っ!! メンバーを紹介するんだからねっ!!」
気を取り直したかのように声を張ったサエさんだが、まだその顔には腑に落ちない様子が見て取れる。本当に、どうしたっていうの?
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