#195:不可視な(あるいは、否ワールドライク辞す)

 

「戦闘フェイズ、スタンバイですっ!! これ以降、座席からお尻が離れますと、時速60kmで皆様のロボティックは後ろへと吹っ飛んでいきますのでお気をつけくださいねっ!!」


 気をつけようの無い忠告が、相も変わらずなされるな!!


 先ほどからの定位置のままで、僕らはその「戦闘フェイズ」とやらの開始を待っている。アオナギと丸男は自信満々の体だけど、ほんとにいけるんでしょうか……各々10秒とか20秒くらいしか動けない計算ですけど?


 対する向こうチームは1分以上の稼働時間を保証されている。短期決戦……!? それを狙ってるとしても、相手も確実にそれを見越してくるよね……早い話、逃げ回られたら終わりじゃないの? そしてこっちが動けなくなった状態になってからゆっくりと料理されると。いかん、ダメな想像しか浮かばないよ。


 <ぐへへへ、この有り余るパゥワァで、封殺してやるだわいな~キョオッキョッキョっ>


 優位に立った途端、その調子こいたキャラが前面に出てきたらしいキサ=オーがそう勝ち誇るかのように言ってくるけど、


 <ピヨォっピヨっピヨォっ、そうだわいな~ミヨォっミヨっミヨォ>


 ギヨ=ヨの笑い声はもはや無理がありすぎる感じだけど、


 <……>


 思いつめたような顔で操縦桿を両手で握っているミロちゃんは隙が無さすぎるけど、


「……」


 やるしかない!! アオナギと丸男、二人を信じて……僕はタイマンにてミロちゃんを討つっ、それだけだ。


「戦闘開始5秒前!! 4……3……」


 猫田さんのカウントダウンが始まる……っ!! 僕は全く説明がされなかったこのロボの動かし方を、何となく右足のペダルがアクセルで、床から生えている目の前のレバーが「操縦桿」で、これを倒した方へと曲がるはずっ!! などと推測をする。というかせめて最低限の説明はしとこう?


「開始っ!!」


 そんな僕を完全に置きざって、ついに「戦闘」が、始まる……っ!!


 <ぐへへへ……>

 <みょみょみょみょ……>


 案の定、キサ=オー、ギヨ=ヨの両者はまずは様子見のようだ。こちらの動きを覗きながら、不気味な笑みを覗かせている。と、その時だった。


「いくぜ相棒」

「おうよ兄弟」


 アオナギ、丸男の不敵な声が重なるやいなや、その搭乗するマシン2体が軽やかにターンを決めた。敵に背後を見せた無防備な態勢っ……!? いや、そうじゃなかった。


「「バックストリーム=ボイーズぅぅぅっ!!」」


 アオナギと丸男の技名が呼応するけど、いや何で。と、次の瞬間、二人を乗せた丸型と三角型のロボは、キュルキュルという音と共に、強烈な速度でバックを始めたのであった。


「!!」


 わざと尻を浮かしている!? それによって「時速60km」とか言ってた高速移動を行っている!? ……エネルギー消費無しで。つまりペナルティを逆手に取った、これは完全な奇襲!!


「おお」

「らあっ、捕らえたぜぁっ!!」


 アオナギの△はキサ=オーの●へ、丸男の〇はギヨ=ヨの▲へ、それぞれ背中から体当たりをかますかのようにして突っ込む。思考の埒外からのその「攻撃」に泡食ってしまったか、キサ=オー、ギヨ=ヨの応対が一瞬遅れた。そしてそれを逃すこの二人じゃなかった。


「くら」

「えやぁぁぁぁっ!!」


 アオナギ機・丸男機が相手に自分の機体を預けたまま、その両手を背後に伸ばしてそれぞれの「拳」をそれぞれの相手のボディに接触させる。


「ぎ」

「ぎああああああああっ!!」


 おそらく絶え間ない電撃が薄毛二人を襲っているのだろう。そしてたまらず腰を浮かせたと思われる。キサ=オー機・ギヨ=ヨ機共に、凄まじい勢いでバックを始めた。


「……」


 二体とも正方形のアクリル足場の端にいた。それが敗因だった。あっけなく押し出され、足場周りを巡る水路に転落するキサ=オー機とギヨ=ヨ機。そしてそれらを後追うように、渾身の力で相手を押し込んでいたアオナギ機、丸男機も水路に落ちていった。まさに一瞬、一瞬での急転直下劇だったわけで。ミロちゃんもそうだけど、僕も呆気にとられたまま固まってしまう。

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