#196:未来型な(あるいは、どんな問題?僕)

 4体のロボットが対局場から水路に落下するまで、わずか20秒も無かったんじゃないだろうか。


 <……5年くらい前にもこの対局方式は行われた。俺と相棒は既に体験済みってわけだ。そしてその対局時、窮地に立たされた正にその時!! この掟破りの技が偶然炸裂したってわけよ。今日再びこれを見て、そして説明を受けて、ロボに乗ってみて、あの時と全く変わってないみたいな感じを受けた。まさかだろとは思ったが、こいつが未だ有効だとは、運営、抜けてんじゃあねえのか?>


 水路にその白いボディを半身漬けたちょっと間抜けな態勢だけど、コクピットの窓から覗くアオナギは、やり切った感のある表情でそうにやりとする。


 その後ろの黒い丸型ロボに搭乗しているキサ=オーは前面の覗き窓から見るに、白目を剥いて気絶しているようだ。同じく丸男が背中で水路へと押しやったギヨ=ヨも舌をだらりと出しているのが遠目にも見える。


 瞬殺。立ち合いがコンマの狂いも無く決まった一方的な横綱相撲を見せられたような感じ……は言い過ぎか。とにかく鮮やかな一番でございました。


「……」


 しかしまだ戦いが終わったわけじゃない。盤面の上辺下辺のそれぞれ中央付近にポジションを取ったままのミロちゃんと僕、対局はこの二人の一騎打ちに絞られた。お互いエネルギーは満タンに近い。そして搭乗しているロボも同じ型、四角と四角。


 条件だけ見ると五分と五分みたいだけど……正面のミロちゃんはどうすればいいの的あわわわな表情で両手を口に当てているだけだ。


 対する僕は何というか、ここ二日間で面白アトラクションの諸々に慣れてしまったというか、自分の想像を絶するものに対する不感症になってしまったというか、半笑いと無表情の中間のような曖昧な顔で成り行きを見守るばかりであって。ミロちゃんと相対すると、ウブなネンネと年増の遣り手ほどの格差が生み出ている。いや、生み出てどうする。


「さて!!」


 そんな緊迫と弛緩のはざまのような異様な雰囲気を撃ち破るかのように、猫田さんの明るい声が響き渡った。と同時に、


「美少女モード、メーイクィン・アーップリケイシヨンっ!!」


 ギリギリの綱渡り的な掛け声と共に、その憎らしい顔をした青く丸い猫型の着ぐるみの大玉のような頭部がぱかりと横半分に割れ、そこから猫田さんが両手でその顔上半分を掲げ上げたまま、腰を振り振り登場してきたわけで。


 ああー、何かデジャヴとデジャヴが重なり合って眩暈が……っ。そのまま、えいっと猫頭を後ろに投げ捨て、人間の姿に戻った猫田さんが対局場のすぐ横へと降り立つ。


「ああーっとおっ!! 一瞬の隙とルールの不備を突いてっ!! アオナギ、トウドウ両選手の背面ぶちかましが決まったぁーっ!!」


 張りのある声で高らかに実況をこなす猫田さんは、何か今日は凛々しい。


 でもその恰好はと言うと、青い猫耳フードに、光沢のある青白の際どい角度のバニースーツ。白いシルクのような質感の手袋に、青い網タイツ。かなりの急角度のヒールは白。


 首には……あれ? 何だろう、金属の丸い……うーん、よく分からないけど……鈴? みたいな……いや違うかな。そして腹部には……えーとあれはほんとに分からないな……半円形の……何だろうかまぼこのような形状の……まあいいか。とにかく対局に集中しろっ!!


 慄いている今のミロちゃんなら、この僕にも何とか出来るはずっ!! DEPはもう関係なさそうだしね。イッツァ、物理で沈めるのみっ、やるぞ!!

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