#178:無意識な(あるいは、あいしゃるリタ~ん)

 

「……いろいろ世話になったな」


 そう、医務室の入り口のところから、翼が僕に言ってくる。神妙な口ぶりだけど、


「そうそう、ミサキっさんには、ホントお世話になりっぱなしで、まあ~何ていうの……大感謝? みたいな的な」


 それにかぶせてくるかのように、横に寄り添っているリタさんがまくし立てる。何て言うかタリィとして登場した時の面影はもう無いな!!


 僕は目で翼に、いいの? リミさんもワンチャンあるんじゃないの? と語りかけるが、いいんだ、と言うように翼もアイコンタクトを返してきた。まあお似合いっちゃあ、お似合いかも。


「俺らは今日か明日には知花に帰る。岬、お前に会えて良かったと、今はほんとにそう思うぜ。こんな場所でだが、いや、こんな場所だからこそ、良かったんじゃねえかなんて思うわけでよ」


 翼がへっ、と笑いながら言うが、それは僕としても似たような気持ちに他ならなかったわけで。溜王というこの非日常感が、互いの深かった溝を有無を言わさず埋めて、本音で殴り合うことを強要して、そしていろいろなことを共有させたわけなのだから。


 でもそんな事、照れくさくて言えやしないから、代わりに僕はベッドから起き上がって降りると、裸足のままで翼の真正面まで行って、無言でその肩を小突いてやった。と、


「あばよ、岬。迷ってんなら、迷ってるままでもいいんだぜ?」


 にやりとしてお返しとばかりに僕の肩をばしりと平手で叩くと、最後にそう言い残して翼は僕たちの前から去っていった。迷ってるなら……ね。かも知れない。すると、


「お、おおーう、み、み、ミサキさんじゃあねえーかー。体の方は大丈夫ですかい?」


 一抹の寂しさを感じていた中に、丸男がタイミングよくシャワーから帰ってきて僕と鉢合わせた。バスローブみたいなのを羽織ってるだけだけど、それ自前か? それにしてもほんとにあなたはいい感じで間を測るな!! と思うも、何かまた他人行儀になった喋り方に、なんだかなあ、という気分にもさせられる。


 でもあなたみたいな人がいてくれて本当に良かった。あやうく満場一致のピエロとされるとこだったわけだし。


「……ジョリさん、次は誰が相手とか、情報つかんでんのか? 次こそは、まともに、楽に勝ちたいよなあ。近年まれに見る激闘続きだぜ? 元老の野郎の策略だとしてもよお、もう少し手加減を要求したい感じなわけよ」


 ベッド際のパイプ椅子に腰かけていたアオナギがそう漏らすけど、確かに。異常な密度の対局が続いているわけであって、ねえ。同じくベッド脇の椅子に座っていたジョリーさんが、例の手帳を取り出しながら、ちょっと待ってねぇんとページをめくる。


「……次の元老院なのは確定なんだけど、あまり聞かないやつらよぉん。ギヨ=ヨ、キサ=オー、ラ=バハキ=アだって」


 僕は名前を聞いてもぴんとは来ないわけなんだけど、アオナギも微妙そうな顔つきで首をひねっている。思わぬ伏兵じゃなきゃいいけど。

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