#173:同胞な(あるいは、闘将!碧薙男)

「……ミリィ選手、タリィ選手、トウドウ選手、ムロト選手、戦闘不能……となります」


 僕と翼の直対こと、この未曾有のごたごた戦は、両チームそれぞれ2名づつの脱落者を出して終結した。


 酸性のプールから引き上げられた丸男と翼、そして僕の腕の中で気を失っていたリタさんが各々黒服たちが引いてきたストレッチャーに乗せられ、会場を後にしていく。


 何だろう、色々な犠牲を払ってしまったように思うけど、唯一、リタさんが元に戻って良かったなあと、そう思うことにしよう。


「ムロトっ」


 対局場から降り、人工芝のグラウンドの上で放心状態だった僕に、背後から咎めるような声と毛布のようなものが掛けられる。


「無茶しすぎ。ばかっ」


 そのまま後ろから毛布越しに抱きしめられた。サエさん……泣いているのかな。湿った、荒い呼吸が僕のうなじにかかっているけど……


 せっかくだから泣き顔を見ておこうと振り向こうとしたら、既に左腕が極められていてそれは叶わなかった。


「早く医務室に。シャワーもあるから」


 サエさんは脈打つ呼吸を必死に整えようとしているようだ。そして僕をグラウンドからダッグアアウトの方へ促そうとする。けどちょっと待ってください。


「……見届けないと、この対局を」


 まだ決着がついたわけじゃない。アオナギと葉風院ハカゼイン。この二人がほぼ無傷状態で残っている。壇上の足場の上には、二人がお互いを見合いながら対峙しているのが見て取れた。


「何言っ、てんの!! さっさと……手当てして着替、えな、さいっ!!」


 極めた僕の腕をぐいぐいと押しながら、サエさんは無理やり僕を連れて行こうとするけど、ちょっと待って。ていうか本当に痛いからほんとに待って。


「アオナギ……さんっ!!」


 激痛に耐えながら、僕は頭上のアオナギに呼びかける。アクリル足場の上に力を抜くかのようにして立ち尽くしていた長髪の隈取り蒼メイドは、ん? といった感じで僕の方に視線を寄越してくる。いつもの自然体。この人はほんと動じないな。


「身内のごたごたに巻き込んで……すいませんでした」


 翼との再会は偶然だったとしても、滅茶苦茶やってしまったのは事実だ。


 不可抗力なことだったけど、丸男を巻き込んで一発で酢プールに叩きこんで、リタさんを助けたい翼を助けるために筆舌に尽くしがたい激痛を与えてしまったり。


「気にすんな少年。お前さんはよくやった。早えとこ、諸々処置してきな。この一戦は俺が引き受けた」


 軽くいなす感じでアオナギはそう言ってくれるけど、でも。


「ここで見届けさせてくださいっ!! 僕もここにいさせてくださいっ!!」


 アオナギ、そして背後のサエさんにも向けて僕はそう嘆願する。


 もはや何も出来ないことは分かってる。でも最後までついていたい。その思いがどんどん強くなっているのを自覚している。


 アオナギ、そして丸男。この二人は今や大事な仲間で戦友。ってやっぱりそう言い切ってしまうと照れくさいけど。そして僕らをサポートしてくれるジョリーさん、遠く離れてはいるけどオーリューさんも、そして僕の大事なサエさんも。皆かけがえのない人達だってこと、僕はもう自覚しているんだ。だから、共有したい。


「しゃあねえ、だったら俺の雄姿を見ない」


 アオナギが見栄を切るかのようにぐるりと首を回して、再び葉風院に向かい合う。ありがとうございます。見届けさせて……いただきますッ!!

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