#174:無情なる(あるいは、甘くて酸っぱい未完かますぜ)
「……」
アオナギの承諾の言葉に、諦めたかのように極めていた僕の腕を外すと、軽くため息をついてサエさんが今度は隣に寄り添ってくれる。
「あ!! あと……今まで騙していてすみませんでした。僕が……」
言い忘れていた。これも謝らないと。と僕が言葉を続けようとした、その瞬間だった。
「……え? 騙す?」
アオナギが少し怪訝そうな顔でまた僕の方を振り返る。ええ、その……今まで男の振りで……と言おうとした僕だが、アオナギの無傷のプロテクターを見て、あれ? と思う。
「え、えーとえーと、僕が実は体が女で……」
不穏な空気を感じつつも、僕はぐちゃぐちゃの頭のまま、そう説明を続けようとするけど、
「あ、いや、知ってた」
アオナギがポンと放った言葉に、顔がこわばってしまった。え? え?
「……ていうか、大体の奴、知ってたんじゃねえか?」
いやいやいや、細心の注意を払って、巧妙に男だと思わせていたでしょうに。見た目もホルモン打ってたから、まあ、そこそこ野郎っぽかったでしょ?
今のカッコは、そりゃメイド服にばっちりメイクだから女に見えなくもないけど。男が女装しているノリだったでしょ? そう自分に言い聞かせるように思いつつも、僕の心の中を不安が黒雲のように広がっていくのを感じている。え? ええ?
「え、じゃあ、僕は自分が周りに男だって思わせていると思っていたけど、周りの人は、僕が実は女で、男のフリをして、さらに女装しているって事まで知ってたとでも? ま、まーさーかーで……」
そこまで言ったところで、アオナギはうんうんと頷きを返してきた。
再三言うが、僕ら対局者の身体には嘘をついた瞬間、電撃を浴びせかける装置が取り付けられている。それが作動しない。どういうこと? 故障?
「……」
アオナギは先ほどの僕の姿を見ても、丸男のようにショックを受けなかったみたいだし、ということは……極限の嫌な予感に、僕は助けを求めるように隣のサエさんを見やるが、
「……」
うんうん、とサエさん。あ、まあサエさんはご存知だった。ええと、ええと後は後は……段々と目が泳ぎ始めた僕は、これ自体が大掛かりな嘘なんじゃないか的、起死回生となる何かを探そうと必死に会場内に目を走らせるが、
「……」
うんうん、といつの間にかグラウンドに出てきていたジョリーさんと目が合うなり頷かれる。
「……」
そしてうんうん、と一塁側の客席にいたカワミナミさん。その横にはシャワーを浴びてさっぱりした顔の元老三人娘、メゴ、リポ、カオも居て、一斉に首を縦に振ってくる。
「……」
本部テントらしき所で待機していた実況少女たち、桜田さん、猫田さん、セイナちゃんもこくり、と首を前へと。
「……」
観客席ぐるりに目をやると、ほとんどの人が真顔でうんうんとしたかのような……いやいやこれ幻覚だわ。
そ、そんなねー、馬鹿なことねー……僕の中で何かが切れる音が聞こえた気がした。
なるほどぉー、なるほどねー。
「あ、あーははははは。そ、それじゃ、ぼ、僕はあれですか? かっは!! ……じ、自分で自分のコトが見えてないっていうぅぅ、例の、その、あれあれアレだったんですかぁあははははははははっはぁぁぁぁぁぁぁ!!」
何だか笑えてきたぞ。そして笑っていないと泣けてきそうだぞ。
「ムロト落ち着いてっ」
瞳孔が開きつつも焦点も定まらなくなってきている僕を、サエさんが背中から優しく抱きしめてくれるけど、けど。
「わ、ワイはピエロやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! とんだ放課後の道化師やったんやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! フオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!!」
僕の慟哭は、地下球場の天井を、突き破らんが如く鳴り響いたわけで。
最終章:
※次回より、真・最終章:そうだよ/世界は/ダメだよ 篇をお送りします。
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