#162:再訂な(あるいは、幾千万、億千万)

「そ、それでは今からミリィ選手VSムロト選手の1対1、デスマッチ形式での対局を始めさせていただきますっ!! 各々準備はOKですか?」


 両者の同意が得られたところで、改めて実況少女のリアちゃんがそう聞いてくる。僕自身の覚悟という意味ではもう準備は整っている。左斜め前方で相変わらずの無音の佇まいのミリィも、おそらく余裕で準備は万全なんだろう。


「……」


 でも、さっきミリィが提示していた「ルール」は「お互いの平常心を揺さぶり、乖離率が100%を超えた時点で1クラッシュをリアルタイムで喰らう」といった形式だった……


 「平常心乖離率」って予選で根津とやった時と、決勝のマルオとの対局のことが思い出されるけど、あの時は何か脈拍とかそういうのを測る装置をつけていなかったっけ? ヘッドギアみたいのと、ブレスレットみたいなのを。それ今回はつけなくていいのだろうか……


 まあ既に僕らの体にはごてごてとしたプロテクターが装着されているのでもう勘弁って感じはするけど。


「……こんなこともあろうかと!! 先ほど左目に付けていただいた『グリーンアイズ・スカウティング・グラシアス』には平常心を測る機能も付いています!! 安心して、対局に臨んでくださいねっ」


 僕の心を読んだかのように、リアちゃんが可愛らしくそう説明をしてくれるけど、今回のはもう何もかも後付けのような気がしてならない。いや、そんなことは気にするな。もうやるしかないんだから。


 僕は改めて傾斜のきつい足元の足場と、そこに設置された自分の両足を固定している装置を見やり、ひとつ大きく息を吸い込む。最重要はこの「足」だろう。ここを両方クラッシュされたら手の力だけで自重を支えなければならなくなるわけで。


「クラッシュされる場所は完全ランダムっ!! ……ですので、いきなりのどこにくるかわからない衝撃には、お気をつけですよ?」


 お気をつけも何もどこか分からなかったら注意はできそうになはぁぁぁぁぁいっ!! しかし頭の中でシミュレートしてみると、劣勢からの一発逆転だってある算段だ。もちろん優勢時も油断は出来ないということだけど。


「……今回は一対一なので、他の4名の皆様は口出しは無用ということにさせていただきます。それでもなお私語が飛び出すようなら……その方にもランダムクラッシュが襲いますので、お気をつけっ!!」


 お気をつけ事項多すぎ……しかしそのルールには、何故か相手チームの歌姫、葉風院が不満顔だ。多分、要所要所でその脱力系のへっぽこソングを挟んでくるつもりだったんだろう。そうはいくか。


「……ルール説明は以上っ!! 無制限一本勝負、開始します。ミリィ選手もムロト選手も、存分に撃ち合ってくださいね? それでは、スタートぉっ!!」


 ついに始まりだっ……!! 僕の方から、積極的に仕掛けてやるっ!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る