#163:公言な(あるいは、翼よ、あれが)
急速に場の空気が重く、密度を上げていくように感じている。僕とミリィの決戦ということに相成ったこの対局……球場の観客席全体から降り落ちてくる歓声は徐々にヒートアップしていくかのようだけど、その反面、どうなるんだ的どよめきに満ちて来ている風にも感じる。
「……」
「デスマッチ」の開始が告げられてから既に20秒くらい……? ミリィと僕はお互い沈黙したまま、互いに目も合わせないまま、身動きせずに固まったままだ。
やってやる、と最初は意気込んでいたものの、やはりどう出たらいいのか、迷いに迷っている自分がいる。でもとにかく、何か言わなきゃ始まらないわけで。
「……お前が本当に翼なのか、それをまず聞きたい」
そう切り出す。いやになるくらいの直球だけど、そこがはっきりしないと何も開始できないよね……僕は相変わらず視線を外している銀色の瞳を見やり、そう問いかける。
「……お前が本当に岬なのか、それをまず聞きたい」
人工的な音声が、ミリィの首に巻かれたチョーカー型変声機(?)から、なめらかに流れてくる。表情のない声色だが、舐められている感触は伝わってくる。
発言と共にようやくこちらに視線を向けてきたミリィの無表情を、苦々しい思いで睨み返してやるが、いや落ち着け、平常心、平常心。
「僕の名前は
これまた直球の個人情報そのままを述べたままだけど、まだちょっと僕は考えがまとまっていないことを自覚する。
「私の名前は
やはり舐め切ったような口ぶりで、ミリィがそうオウム返しのように言ってくるけど、そこは認めてくれるわけね。でも改めて見た目が美形少女からそう自己紹介されると結構来るものがあるな。4年前の面影は今はかけらも無いわけで。
「ムロト選手……平常心乖離率82%」
おっと、実況少女リアちゃんがそう警告を発してくれた。やばいやばい、何ショック受けてるんだ、これからだろ?
「……何で、そんな恰好してるんだ? その……何というか、女性の、女性みたいな……」
しまった。平常心を取り戻そうとして、質問を矢継ぎ早にしていこうと思ったものの、少しつっかえてしまった。でもいい。時間を稼げ。深呼吸して平常心を戻すんだ。しかし、
「……お前もそんなメイドみてえなカッコしてんじゃねえか。メイクまで決めてよぉ。こっちの方が驚きだっつーの」
!! ……銀髪少女ミリィの、いやもうその物言いはかつての翼のままだ……いきなりの豹変に僕はたじろぐ。やっぱりそうだ。この少女の中身は、僕がよく知っていたあの頃の翼のままだった。
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