#161:決意な(あるいは、立ち向かう、明日へ)

「少年、みすみす向こうの口車に乗っかることはねえ。ましてやあの銀色がお前さんの身内かもしれねえっていう、尋常じゃねえ事態。そして相手がお前さんに相当な悪意を向けていることも傍から見え見えだ。落ち着け。うまくは言えねえが、いやな予感だけはする」


 正直、頭の中が混乱を極めていた僕の右隣から、アオナギが冷静にそう忠告めいた事を言ってきてくれるが……確かに。確かにそうなんだろう。きわめて賢明な判断だとは思う。けど……


「アオナギさん、トウドウさん。ここ一番だけ、僕のわがままを通してもらうわけにはいかないでしょうか。翼……いや、まだその素性が明らかになったわけじゃないんですが、あのミリィとの単独直接対決を……行う許可が欲しいんです」


 気が付けば、そう言い放っていた。危険は承知。だけどこの直対を避けてしまったら、例えこの対局に勝ったとしても、僕はもうDEPを撃てなくなってしまうような気がしていた。


 ミリィが本当に僕の双子の兄、翼だったとして、4年前に僕らの父親だった人に連れられていった、あのまだ子供らしさを残していた少年だったとして、この、たった4年の間に何があったのか、何があってあの「銀髪の少女」「金銀の人形のようなつくりものめいた双子の片割れ」になっているのか、そしてこの「溜王戦」というものに参加しているのか。


 偶然か故意か、何者かの意思なのか、そこを突き詰めない限り、僕も前に進めない気がした。アオナギ、丸男の顔を交互に見やる。反対されるかと思いきや、なぜか二人ともにやりとした悪そうな笑みを浮かべていた。え、何で。


「いい気構えじゃねえか、少年」


「俺らはよう、むしろ全然構わねえのよ。こんなシチュエーション、作ってもそうは起こらねえってなもんでよぉ」


 あれ。二人とも……もしやこの状況を楽しんでいる? こういうの、そういや望むところなんでしたっけ。くだらない人生を、馬鹿みたいに燃やし尽くすとか、確かそう言ってましたもんね。


「いいんですか? ……おそらくは僕にとって最大の正念場。ミリィとの戦いは、ノーガードのベタ足殴り合いになると思います。僕自身、立ち直れないほどのダメージを食らって、そこであっさり終わってしまうかも知れないですけど……」


 僕の言葉を遮って、


「……少年、『正念場』と自覚してるんなら、俺らが止める筋合いは既にねえわけよ。『殴り合い』? 殴って殴られてその痛みを共有し合えば、その痛みすら昇華されちまうかも知れねえぞ? 俺から言えることはなあ……存分に行けよ、ただそれだけだ」


 アオナギがそう言いつつ、把手をつかんだままの左拳を目の位置まで掲げて見せる。


「ムロっちゃんよお、初めてお前さんを見た時から、俺っちはずっと思ってたことがあるのさあ……『ダメ人間』というくくりじゃ収まりようのねえ、とんでもねえ何かを持ったやっちゃなあってよぉ。うまく説明できねえけど」


 丸男も顔の片側がひきつったかのような妙な笑みで右の親指を立ててくる。僕は仲間に恵まれていた。そうだよ、「溜王戦は三人一組」、独りじゃあないんだ。


「……骨は拾ってくださいよ?」


 僕も二人に向けて、目の据わった気持ちの悪い笑顔でダブルピースをかましてみせる。覚悟は出来た。


「ミリィとのデスマッチ……この室戸岬、謹んでお受けしますっ!!」


 高らかにそう宣言した僕と、銀色の表情を無くした双眸が向かい合う。お前が翼ならっ、僕にしか出来ないことがきっとあるはずだっ!!


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