#154:酸性な(あるいは、はじける、ミラクル)

 アクリルの足場が滑り台のように角度をつけられ、その上に憐れなデモンストレーター:太男が、手脚を広げさせられたほぼ拘束に近い状態で据え付けられている。全般的に嫌な予感しかしないけど、どうなんの、これ。


「『攻撃者』と『対象者』がDEPを撃ち合った結果、評点が1ptでも上回った者が勝者となります。ちなみに同点の場合はノーカウントで対局が進行します。まず無いとは思いますが」


 リアちゃんの説明は続く。DEPを撃ち合うということに関してだけ言えば、極めてシンプルな形式のようだ。だがもちろん油断は出来ない。


「勝者の出したカードに従い、敗者には先ほど申し上げました『9つの箇所』のどれかに、『クラッシュ』が加えられることになります……例えば『胴:100』のカードだった場合……」


 リアちゃんがいずこかに向かって指示を出した瞬間、


「おうふっ!?」


 太男の身につけていた銀色の鎧のようなプロテクターが、突如、ドゴンというような打撃音を発して震動したようだ。太男が自分の左肩を見やり、何事かというような顔をしている。


「このように打撃を模した衝撃が加えられることとなります。ちなみに今の威力は『100』。軽く拳で小突かれた程度ですが、威力は100〜1000までありますので、後は推して知るべってくださいね!!」


 「ね!!」と言われても。まあ僕のこれからの経験から鑑みると、700くらいからやばいことになりそうな感じだと、そう推測できる。


「各パーツの『耐久度』は一律『1000』となっていて、食らっただけ蓄積していきます。そして『耐久度』を超える一撃を食らうと……」


「があっ!!」


 今度は太男の吠える声が響き渡った。その左肩のプロテクターがひときわ大きく震動すると共に、勢い良く砕け散り、弾け飛んだのである。ど、どんな機構なの?


「……このように『九龍の恩恵』がひとつ失われることとなります」


 わかりにくい表現だけど、つまり、自らの身体を支える物が無くなるということだろう。つまり……


「この『クラッシュ』を9回受けると、当然の如く、滑落を止めることは不可能です」


 今度は指示なしで、太男の身体の様々な部位のプロテクターが衝撃と共に次々と弾け飛んでいく。


「ごへっ!! ぎへっ!! ぐへっ!!」


 叫び声の三段活用みたいな音声を発しつつ、太男の身体はその支えとなっていたワイヤーやらレール上の足場状の装置を失っていき、ついにアクリル足場の上を足から仰向けで滑り落ち始めた。その先にはもはや恒例の円柱形のプールが鎮座しており、犠牲者を待ち構えているっ……!!


「滑り落ちて、中央の『アシディック・オーシャン』に落ちた時点でその対局者は戦闘不能と見なされ、失格となります」


「ぎああああああああああっ!!」


 派手な水音と共に、太男の絶叫がこだまする。「アシディック」って「酸」ってことでしょ!? と、溶かされたりするんじゃないの?


「プールには食酢が満たされているので……落ちると粘膜とかに結構来るかもですっ。あと臭いが数日は取れないかも……」


 ビネガーの方ね。それはそれでやばい気はするけど。太男は何とか自力ではい上がると、黒服たちからホースで水らしきものを掛けられている。うん、落ちたくない度では本戦最高かも。


「最後まで足場上に一人でも残っていたチームの勝ちっ!! 大まかな説明は以上になりますっ」


 爽やかにそう締めくくるとリアちゃんだけど、これまた一筋縄ではいかない予感……相手も相手でかなりの強敵感があるしで……どうする?


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