#110:不発な(あるいは、甘いわな)

 何かいやな感覚……違和感を感じる。それが何に起因するのかは、うまく説明できないけど。


「……」


 でも次の瞬間、僕は左手の平をセイナちゃん向けて掲げることで「パス」の意を示していた。何かある……相手チーム一番手リポちゃんのいきなりのパスは。それは何だ? 何でだ? と考えている間もなく、


「パ〜ス、パ〜ス」


 僕の次の「子4」、カオちゃんも速攻パスをしてきた。つまり……親のメゴちゃんが勝負するってわけだ。親が絶対勝つという勝算があるのなら……残り二人はパスした方が賢明だ。だけどそううまく行くものなのだろうか。敵チームのことは全く考えの範疇に入れていないじゃないか。


「……ぼ、僕は、お、女に本気で岩塩をぶつけられたことがあるんだな」


 そう、丸男がいることを忘れていないか? 予選ではアレだったけど、この人の引き出しも舐めちゃあいけない。見ろ、岩塩を撒かれる人間がいるか? 嘘発見器の作動は無し。つまり真実。それもどうかと思うけど、DEPとしてはかなりのものだと思う。高評点をたたき出してくれるはずだ!!


 <トウドウ:21,333点>


 よし!! 2万越え、70点の出来!! 苦手と思われる高い所で、コンディションは不調そうな割にはやってくれたよ。後は親のメゴちゃんがどう出るかだ。


 って、……あれ待てよ。もしメゴちゃんがパスしたら? 丸男がウィナーだけど、今のスライド位置は「0」……ニュートラルだからこれ以上は下がらない。勝ち損? そしてパスしてないアオナギだけが10°上げられることになるってことは……まずい、同士討ちだ。


「……パス」


 !! ……そう僕が考えた時には、既にメゴちゃんがそれを告げた後だった。


「一手目終了、ウィナー、トウドウ選手!!」


 セイナちゃんが丸男の勝利を告げるが、勝利……ではないはずだ。


「……アオナギ選手、1UP!!」


 実況少女の合図と共に、アオナギのスライドがじりじりと角度をつけていく。両手ですべり台の縁を掴み、脚を突っ張って滑落に耐えようとするアオナギ。


「……」


 そのやや緊張した顔に目をやると、こちらを見返してきて大丈夫だ、みたいに頷かれた。その体が下へと動き出すことはなかったものの、このスライド、結構摩擦の少ない素材なのか、表面に何かコーティングされているのか、10°プラスの時点で、手足を使って体を固定していないと滑り始めてしまうようだ。


 当のアオナギがさっき「3回上げられたら、体を固定するのは困難だろう」と言ってたけど、正にその見立ては的を射ているのかも知れない。


 いや、そんなことを冷静に考えている暇はないか。次……次をどうする?


「第2手目っ!! 親番〜ルーレッツっ!!」


 セイナちゃんが再びバックスタンドのディスプレイを指し示す。親番……アオナギに回ってくれるのがいちばん有難いのか? それ以外は……よくわからないよ。取り敢えずアオナギに止まってくれー!!


「親番、チマチ=カオ選手!!」


 ……くそっ、こちらの思い通りに……いくわけないか。絶対あれ操作されてるよ。抗議したいが無理そうだ。でもそんな諸々を込みで想定してたんだろ? やるしかないっ。


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