#103:友引な(あるいは、あんまりそわそわ)
そんなこんなでまったく収穫の無いまま、無為に時間だけが過ぎていく。対局開始は午前10時。初戦の僕らはそろそろスタンバらなきゃいけない頃でしょうか。スタジアムは徐々に観客らのどよめきのようなものが満ちてき始めているけど。
「……にしてもよぉ、あの隠されてる、どでかいのは何なんだぁ?」
丸男が内野の方を見やりそう聞いてくるが、多分、次の対局の場だと思う。何かよからぬ仕掛けが為されているだろうことは今までの経験則より薄々感じ取れてはいるが、それが何かまでは分からない。
その謎の物体の上から掛けられているのは、巨大な銀色のビロードっぽい質感の大きな天幕のようだ。よくよく見ると、等間隔に六ケ所、天に向けて出っ張っている部分が確認できる。六ケ所ということは、おそらく予選準決であったようなチーム3人全員でやる「総力戦」なのだろう。決勝にふさわしい戦い方っちゃあ戦い方だけど、昨日の疲労もまだ体全体にのしかかっているわけで、こりゃあますます元老院の本気度が窺えるよね……
まあもう何度も言うけどやるしかない。僕らはテントの陰でそそくさと勝負服に着替えると、ジョリーさんに手伝ってもらいながらメイクを何とか終えた。
「……少年、相棒、ここまで来たんだ、獲るしかねえ。元老が何やって来ようが、俺らにはもう関係ねえんだ。金をぶんどって、ついでに溜王の名前もいただこうぜ」
アオナギがそう気合いを入れてくる。今日の隈取りは昨日とは少し違って赤い部分がやや多い。本気のあらわれ、だろうか (いやそんなことないか)。
「この一年の生活費のためぇぇぇぇ、俺っちはぁ、めさんこやってやるぞなもしぃぃぃぃ」
丸男も気合いだけは入っているようだ。白塗りの顔に、今日は目の周りの黒く塗った部分が心なしか大きいようだ。本気のあらわれ、いや、ではないのだろうな、二人してミスっただけかな。僕らは柔らかな人工芝を踏んで内野方向へと向かう。と、さらに観客たちのざわめきが大きくなってくるのを感じた。いよいよか。
「みなさまーっ!! おーまーたーせーしましたっ!! 決勝トーナメント、第一試合っ!! これより始まりまーす!!」
10時3分前、地下球場に響き渡ったその元気な声の主は……
「実況はワタクシっ、
予選最初の試合と同じく、黄色いコスチュームに身を包んだセイナちゃんだった。そのフルネームにはやはり突っ込んではならない何かを感じるので、僕は静観だ。
セイナちゃんは決勝だからなのか、黒だったおかっぱ頭を真緑に染め、両側頭部の辺りからは長い角のようなものを張り出させている。そして体にはヒョウ柄のビキニ、黄色のロングブーツに肘までの同色のロンググローブと。何だろう、何かのようで何かで無い、このもやもやした感情を、どこにぶつければいいのだろうか。
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