銀河戦隊ギャラクシア

雷藤和太郎

第24話 目覚め

 運命の車輪『ソンブレロ』を巡る銀河戦隊ギャラクシアと悪の秘密結社コールドスリープ!

 秘密結社コールドスリープの幹部、ホールブラックはギャラクシアとの戦いの末、ついに運命の車輪『ソンブレロ』をその手に掴む!

 手に入れた者に宇宙を司る力を与えるという運命の車輪『ソンブレロ』。あと一歩というところでホールブラックを倒せるところだった銀河戦隊ギャラクシアは一転大ピンチ!

 ホールブラックの背後に輝く運命の車輪『ソンブレロ』!

 次々とホールブラックの放つ『幸福な眠りの浄光』に導かれ、次々と眠りに落ちていく仲間たち!

「お前も眠りにつくといい、コーセイレッド!」

「ぐッ……!俺は、ッ、こんな眠気などに、はッ……負けないッ!」

 片膝をついて睡魔に抗うコーセイレッド!世界は秘密結社コールドスリープの手に落ちてしまうのか!負けるな!銀河戦隊ギャラクシア!



「ふはははは!素晴らしい!素晴らしいぞソンブレロの力は!この力さえあれば、秘密結社の悲願達成も夢ではない!」

 秘密結社コールドスリープの悲願、それは辺境惑星である地球に生きる全ての生物を永遠の眠りへと誘うこと。

 宇宙を夢見た人間が、これ以上宇宙へと進出しないように努めることだった。

 それに対する銀河戦隊ギャラクシアは、天の川銀河外のあらゆる知的生命体からなる超銀河連邦における先遣隊、つまり宇宙人だった。

 全ての地球人類に夢と希望、そして知恵と勇気、平和を愛する心を与えるためにやってきたギャラクシアは、その活動を秘密結社コールドスリープによって阻害されていたのだ。

「お前たちはッ、そうやって地球の全てを眠りにつかせようとして、どうするって言うんだ……ッ!」

 宝剣メイオールを地面に突き刺し、片足を踏ん張って眠るまいと踏ん張るコーセイレッド。

「何を寝ぼけたことを言っている?お前たちこそ、我が地球人類をどうしようというのかね?」

「何ッ!?」

 強い重力に抗えないかのように己を支えるコーセイレッドに対して、ホールブラックは悠然と歩を進める。

「人類に蒙を啓かせて、まだ見ぬ超銀河連邦とやらの末席へと加えようとでもいうのか?それが人類の平和だと、なぜ言い切れる?」

「どういう……ことだッ!?」

「察しの悪いガキはこれだから……。君たちは言わば侵略者だ。平和な地球にいらぬ知識を持ってきて、厄介事を増やす」

 ホールブラックの後方、後頭部の辺りで、運命の車輪『ソンブレロ』が光輪となってゆっくり回っている。

「我々の創始者は、君たちの存在に初めから気づいていた……。夢、希望、平和……そんなおためごかしの美辞麗句で人々の心を操り、母なる地球から人間を引き剥がそうというの存在を、ね」

「俺たちが、悪者だと!?」

「そうさ!君たちは地球を善なる感情で支配してその仲をメチャクチャに引き裂こうとしている!夢も希望も、平和を愛する心も!……全ては不必要な感情だ」

「そんなはずがない!夢や希望は人を前へと進ませ、平和を愛する心は誰かと分かり合おうとする意思を生む!」

「チッチッチッ」

 指をふるホールブラック。

 そのままコーセイレッドの首をむんずと掴み、片腕で軽々と持ち上げた。

「人は、永遠にその場で足踏みしていればいい。目の前に道がないのに、前に向かって無理に進む必要はないんだ……。そして」

 押し出すように投げ飛ばすと、コーセイレッドはベシャリと地面に突っ伏した。その手から、宝剣メイオールを手放して……。

「平和を愛する心は、別の誰かの平和とぶつかる。我々は、歴史の内でそれを嫌と言うほど学んできた」

 ホールブラックは両腕を開き、天を仰ぎ見る。

 ギュルギュルと回る運命の車輪『ソンブレロ』に共鳴するように、空は黒く渦を巻き始めた。

「だから!我々コールドスリープは、人類に永遠の眠りをもたらすのだ!永遠の眠りこそが救済!永遠の眠りこそが世界平和!」

「そんな平和など!」

「ほら見たことか!平和は別の平和と対立するのだ!お前ら侵略者は、そうやって自分たちの平和を押しつける!」

「なッ……!?」

 愕然とするコーセイレッド。

 目の前が真っ暗になった一瞬に、強い眠気が襲ってくる。

「眠気を睡魔とはよく言ったものだ。蒙は啓かれず、眠り続けるがいい」

 ホールブラックの高笑いと共に、コーセイレッドの視界はブラックアウトして……。


「……ッド」

 鈴の音のような、美しい女性の声が聞こえる。

「コ……レッド……」

 仰向けになったコーセイレッドが目を覚ますと、そこは丘一面の花畑だった。

 膝枕をしていたのは、地球人類との懸け橋となろうと銀河戦隊ギャラクシアと共にやってきたカシオペア姫である。

 バネ仕掛けのように跳ね起きるコーセイレッド。

「……ホールブラックは!?」

「ホールブラック?何を言っているの?おかしな人ね」

「俺は今まで、戦っていて……そうだ!俺は眠らせられてムグッ!」

 起こした上半身を再び膝枕させるカシオペア姫。

「変な人。今、あの子が眠ったばかりだから、静かにしていてね」

 コーセイレッドが目をやると、そこにはホールブラックによく似た子ども。

「……なぜ?」

「なぜ、って、ただのお昼寝よ。あなたも眠っていたじゃない」

「そうか……これは夢だ。夢なんだ。早く、早く目覚めなければ……」

「もう、寝ぼけてるの?」

「違うんだ、カシオペア姫。これは夢なんだ。俺は悪の秘密結社コールドスリープと戦っていて、それに……」

「……どうしたの?私の顔に何かついてる?」

 フラッシュバック。


 カシオペア姫は、殺されたのだ。

 悪の秘密結社コールドスリープの手によって。


「とにかく、これは夢なんだ!」

「夢でも良いじゃない」

「なッ……!?」

 視界がグラリと歪む。

「あなたが好意を寄せていた私が、こうして生きている。平和そのものの世界で、永遠の微睡みの中を生きていける。……それでいいじゃない」

 カシオペア姫の指先が、コーセイレッドの頬を撫でる。

 その懐かしい感触に、思わず涙を流すコーセイレッド。

「……ダメだ」

「……何で?」

「心地の良い夢は、永遠の独りよがりだ。回り続ける車輪も横に倒れていてはその場で回るだけ。俺たちは、前に進むと決めたんだ!」

「その先に進む道がなかったとしても?」

「道は、誰かが作ったからそこにあるんだ!……そうだ、俺が進むのは、既に誰かの通った道じゃあない!暗くとも、険しくとも、そこが未知であろうとも突き進む!そうして道ができていくんだ!」

「……あなたはそういう人よね。さあ、宝剣を手に取って。あなたのその心の強さが、新しい力を目覚めさせるでしょう。……さあ!」


――ガッ!


 無意識のうちに宝剣メイオールを手にするコーセイレッド。

 その瞬間、宝剣は吸い込まれるようにコーセイレッドの手中に溶けて、眩い光が辺りを照らした。

「何の光だ!?」

 両腕で光を遮るホールブラック。

 閃光が弱まると、そこにはコーセイレッドが立ち上がっていた。

「何……だと……!?」

「秘密結社コールドスリープ、その幹部ホールブラック!」

 俯いていた顔を上げて、拳をつき出すコーセイレッド。

 その拳は、太陽のように熱く赤く燃えていた。

「人類を堕落へと導くお前たちを、俺は許さない!」

「甘美なる眠りから目覚めたとでも言うのか!?」

「そう、甘くとろけるような夢を見たよ……。愛も、平和も、眠った夢の中には全てがあるんだろうな……。だけど!それはたった一人で見る、寂しいものだ!そこには分かり合う喜びも、支え合う繋がりもない!」

「それがどうした!?誰かと分かり合うことも、支え合うことも、永遠の眠りの前には必要のないもの!」

 再びホールブラックの後方、運命の車輪『ソンブレロ』が回りだす。

 その力に対抗するように、輝きを増すコーセイレッドの燃える拳。

「現実なんてクソだ!誰かに振り回されるなんてまっぴらごめんだ!人は未知なるものとは永遠に分かり合えない!」

「分かり合おうとすれば、どんな者とだって分かり合える!」

 燃える拳を空中に向かって突くと、その炎はギュンと圧縮し錐もみ回転をするレーザーとなって、運命の車輪『ソンブレロ』を破壊する。

「初めて……お前の本当の言葉を聞いた気がするよ、ホールブラック。……人は、そんなに弱くない。未知と分かり合う道だって、あるはずだ」

「……ッ!」

 氷の結晶のようにはじける『ソンブレロ』。

 同時に、ホールブラックによって眠らされていた人々が次々と目覚めていく。

「クソがァーッ!!!」

 コーセイレッドに殴りかかるホールブラック。しかしその力はソンブレロに大部分を持ってかれていたらしく、パンチはコーセイレッドに受け止められてしまう。

「グ……ッ!」

「俺たちだって……分かり合えるんじゃないか」

 目覚めた他の隊員たちが次々と二人の下へと駆け寄ってきて……。




「……生、康生!起きなさい!」

 揺すられてようやく意識がはっきりしてくる。目覚ましはけたたましくアラームを鳴らしていた。

「まったく、こんだけ目覚ましが鳴っても起きないんだから……」

「夢……?」

「ほら、早く起きなさい!」

 日曜日の朝。

「何だよ、まだ朝早いじゃん……」

「康生、アンタどうして目覚ましセットしたのか忘れたの?ホンットウにこれだから全く……」

 ブツブツ言いながら部屋のドアを開けるお母さんを、僕はぼんやりと見送る。

 振り向きざまに、お母さんが言う。

「今日も補助なし自転車の練習するんでしょ?……今日はお母さんも一緒に行ってあげるから、早く支度しなさい」

 そうだ。昨日、一人で夕方遅くまで補助なし自転車の練習をして、右に倒れて腕をすごい擦りむいたんだ。

「ほら、早く」

「待ってよ!すぐ行くから!」

 そう言って僕は跳ね起きると、お母さんの手をギュッと握った。

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銀河戦隊ギャラクシア 雷藤和太郎 @lay_do69

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