「押忍! 初めまして」「畏まらないでいい」

ボビンと共にウディグリスなる者に会いに行く事にしたアルバートだが


「お兄さん、この【ドラゴンファイア】にウディグリスさんはいるんでさぁ」


「なら、早速入らせてもらうぜ、失礼しゃーっす」


冒険者ギルドの前までボビンに案内してもらい、早速と言わんばかりに勢いよく扉を開けて入ってみれば。剣を腰に差したもの、斧や戦槌を背負う物。杖や槍を持った者と三者三様十人十色といった様に様々な冒険者が各々の冒険の話を肴に酒を飲んだり食事を摂っていた。


「さてさて、旦那はいるかなっと……よかった今日は居たようでさ、ほら、あそこに座ってるリルドラケンがそうでさぁ、ちょいとお待ちを話つけてきますんで」


そういうとボビンはウディグリスと思われるリルドラケンの元へと駆け寄る。

さて、リルドラケンの容姿はと言うと。二足歩行をする竜といったものだ。

その体躯は2mを超え大きな翼に長い尻尾を持ち硬い鱗に覆われた肌が特徴だ。

往々にしてリルドラケンの鱗は寒色系のそれであるがウディグリスの鱗は寒色系ではなく緑色をしていた。また頭部には人間のように毛髪も生えており。

小綺麗にセットされたそれは彼が几帳面な男なのだろうと思わせる。


「お待たせしました、お兄さん、ささ、こっちでさ旦那、この人があっしの命の恩人で冒険者をしているアルバートさんでさぁ」


「押忍! 初めましてアルバートと言います!」


アルバートはまっすぐ姿勢よく立ち、そのまま90度直角に礼をする。


「かしこまらなくていい、ボビンから名前を聞いてるかもだが自己紹介をさせてもらう、私はウディグリス、まぁウッディーとでも気軽に呼んでくれ」


そんな姿に微笑みながらウディグリスは自己紹介を始める。

見た目に反してリルドラケンは総じて温厚かつ陽気、人見知りをしない種族だ。

ウディグリスもその性質に漏れず、アルバートへ友好的な態度を示し気さくに話しかける。


「はい、じゃあ俺の事もアルでいいっすよ」


「それじゃあ、そうさせてもらう、早速だがアル君は仲間が欲しかったんだな? ボビンからはそう聞いたが」


「はい、俺ともう一人の友人二人じゃボビンが言うには探索は難しいって

話になったんで。それじゃぁ、とボビンがウッディーさんを紹介してくれると」


「ふむふむ、聞いた通りだな、君がよしと言うなら、私は断るつもりはない。

だが最初にこの片目について知っておいてもらいたい」


彼の正面に立てばすぐにわかるがその顔の右目に大きな切り傷があった。

事故によりこうなってしまい、高位の魔法で治そうとも考えたが。それほどの術を使う者が見つけられず、こうしたままだそうだ。

片目が不自由な為、剣を振るうのは苦手で体格を活かして味方を庇いながら。

神聖魔法と言う魔法を活かして味方を補佐するのがウディグリスの戦い方だ。


「とまぁ、これもあって、ここ数年は仕事は街中や近場で受けれる簡単な依頼

ばかりに絞っている、勿論まだまだ戦えると言う自負はある、だがしかし健常者に比べると劣るだけにパーティーへの勧誘は無くてな、どうだろう?」


「構いませんよ、俺達と一緒に冒険しましょう」


「やはり、難しいか……って、何!? 私はいいがそんな簡単に決めていいのか」


「俺は俺の気に入った奴と冒険をしたい。俺はウッディーさんが自分の事を正直にちゃぁんと話す誠実な人だと思った、それに守りは凄いんでしょう。俺はそういう技術に関してはからっきしなんでそういう奴なら俄然歓迎ってなものです」


「さすがお兄さん懐が深い、旦那【ドラゴンファイア】に居座っても燻ったまま。お兄さんのいるギルドの方が道が開けるってものだと思いますぜ、あっしは」


「そうだな、ウディグリス今日よりアルバート殿の率いるパーティーに名を並べたいと思う、どうかよろしく」


「そんなかしこまんないでくださいよ、話しぶりから貴方が年上でしょう」


「ふむ、私は今年で35になるな、だがしかし、年齢の前に我々は仲間だ、畏まった口調は疲れるし、普通に話してくれて構わない」


ちなみにだがリルドラケンの成人は30と少々、他の種族よりも遅い。

ウディグリスは人間で言うならば20そこそこといった所だ。


「あ、そっすか、いやー、やっぱ丁寧口調は駄目だね、こういうのはエドの役割だね、うん」


「エドとは、君の言っていた友人の事だな?」


「ええ、そうっす、すっげぇ頼れる相棒であり、夢を共にする仲間であり、唯一無二の親友、フルネームはエドモンドって言うんすよ」


「エドモンドってーと、3年くらい前に投獄された少年も同じ名前じゃぁなかった

ですかい? 更に言えばナイトメアだって話だ」


「だってそいつだもん、容疑に関しては濡れ衣だしナイトメアだからって

あいつは悪い奴じゃない。ボビンだろうとあいつを悪く言うなら殴るぜ」


「いえいえ、滅相も無い、あっしだって、脛に傷を持ってるもんでして。お兄さんのご友人を悪く言えた義理はないでさぁ、うんうん」


ボビンはアルバートに殴られるのを怖れ、必死で言い訳をしてその場を収める

グラスランナーは総じて手癖が悪い性質がある。それゆえにこのボビンも人の物を少々失敬したり拝借したりとしたこともある。グラスランナーは皆してこうなものだから取られた日には、しまったやられたと済ませてしまうのがいいとされる。

例え追っても持ち前の逃げ足で逃げられ徒労で終わるからと言うのもあるが。


「私もそれをとやかく言う事はない。容疑に関しても晴れているならば問題なし

ナイトメアも我々リルドラケンからしたら少々変わった子と言う物だ」


リルドラケンは卵生、卵から生まれてくる種族だ。そしてその中には数は少なくともナイトメアとして生まれるものもいる、そして本来ならば胎内を傷つける角は卵生であるリルドラケンには関係ないが為に特に差別されることなく。

他の子供達と同様に育てられる、それゆえリルドラケンのナイトメアへの反応は。

ちょっと角が生えた変わった奴とそこまで忌避するものではないのだ。


「まぁ、詳しくはエドにあったらって事で。もう準備を済まして待ってるはずだ。一度【翠の星】まで戻ってみようぜ」


【ドラゴンファイア】を三人は出ていく。その様子を少ないながら冒険者が見送る

片目を失った神官、駆け出しの剣士、そして”貧乏くじ”扱いの探し屋。

それらは彼らの記憶からすぐに消える、どうせとるに足らない存在ゆえに。













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