「エド、こっちだ見つけたぜ」「ふむ、この足跡……」

さて、二人は乗合馬車になんとか乗ることに成功して、村へとたどり着く。

村は一見、平和そうに見える。川があり、畑があり、牛が歩く。

どこからどう見ても、農村であるという感想が初めに出るといったものだ。


「首都の外は初めてだな、しっかし、何もねぇ所だなぁ」


「僕は父と何度か村なんかに言った事があるよ、何もなくはないよ、ほら」


二人は馬車から降り立ち、村の門へと歩み寄る。すると、青年が一人立っていた。


「お前ら、見ない顔だな村の者じゃねえな、名前と要件を言え!」


木製の棒を青年は油断なく構える。


「おう、俺はアルバート、こっちのぼさぼさ髪はエドモンド、冒険者だ」


「こちらで依頼を頼まれたと思うのですが、ご存じないでしょうか?」


アルバートが名乗り、エドモンドは先ほど手に取っておいた依頼書を見せる。


「ああ、モーガンさんの所か、ならこのまま道をまっすぐ行きな、うたがって

悪かったな、モーガンさん、かなり困ってるみたいだし助けてやってくれや」


「おうよ! 困ってる人を助けるのが冒険者だからな! 行こうぜ!」


「受ける前まで、見張りなんてと渋ってた癖に」


二人はそんな雑談を交わしながら、歩いていく。

村は蛮族に襲われてる風にも見えず、平和なものだ。

一つ小川にかかる橋を越えれば、それは見えてくる。

柵に囲まれた場所にまとめられ。青い芝生を暢気に食む、山羊達が。


「お、あそこがモーガンさんの所じゃないか? 山羊が見えるぜ」


「あ、本当だ、時刻は……日暮れ前につけてよかったな」


時刻はおおよそ15時といった所だろうか、日はまだ落ちていなかった。


「すんませーん! 依頼を受けて来た、冒険者なんすけど、誰かいますかー!」


アルバートが大声で家の前で叫べば、数秒経ち扉は開かれる。


「そんな大声で叫ばなくても聞こえてるわよ、父さーん、冒険者さん来たよー」


一人の少女、茶髪のおさげにそばかす、田舎の少女といった感じの子が出てくる。

少女が父を呼ぶがと、恰幅のいい男が歩いて来て挨拶を始める。


「やぁ、マリーさんの所から来てくれたんだね。私が依頼主のモーガンだ

こっちは娘のモーナ、っさ、立ち話もなんだ家にあがりなさい」


モーガンと名乗る男は二人を心地よく迎える、モーナと呼ばれた少女は先に自室へと戻っていってしまう。


「ごめんな、ちょっとばかし気難しい子でね、反抗期って奴かねぇ」


「大丈夫っす! 気にしませんよ、今は依頼の方が大事っすから」


「元気がいいねぇ、叔父さん好きだよそういう子、ささ、そっちの椅子にかけてくれ、さてと、依頼なんだが事態は私達家族にとっては深刻な問題になっていてね」


モーガンが言うには、日に日に山羊の数が足りなくなっていると言うのだ。

山羊の世話は朝のうちに乳を搾ってやり。昼の間は外に出し草を食べさせて。

夕方には牧舎へ戻すといった感じだ。

最初は数え間違いなのだろうと気に留めなかったのだが。ここ数日でその数は明らかに大きくなっていた、これは泥棒かそうじゃなくても何か外的な原因があるのではないかと思った、そこで知り合いのマリーさんの所に依頼を出したとの事。

最初は罠を仕掛けておいて仕留めてやろうと思ったが素人の罠ではどうにもならずエドモンド達は見張り以外にも罠を作って仕掛ける事、そして原因がわかり次第その排除も頼まれるのであった。


「ふむ、山羊が盗まれた現場は見たことないんですよね」


「ああ、誰が、どう盗んだかなんて、さっぱりだ」


「こいつはもしかするともしかするんじゃねぇの? エド!」


アルバートのもしかするととはきっと蛮族の事ではとエドモンドは思う。


「それは調べてみなきゃ分からないよ、日が暮れるし、今日は無理そうだけど」


エドモンドは調べなければ分からないし、日が暮れるであろう、今の時間から調べようとするのは無理だと述べる。


「夜は蛮族の時間だからな、準備もなしに飛び出すのは得策じゃないだろうね

今日は今から山羊を牧舎に戻すんだ、ついてきてくれるかな?」


「了解っす! もしかしたら、そのまま犯人に出くわすかもな」


「わかりました、アルの言う通り犯人が分かればいいけど……」


そうして、牧場へと出て、牧舎へ山羊を返していけば、モーガンさんは落胆する。


「…………ああ、またやられてる、昨日と一匹会わない、これでもう十匹目だ、これ以上減ったら、肉も乳もどうしたもんか」


「俺達が必ずその泥棒をとっちめますから! 行こうぜ、エド!」


「ああ、そうだね、でも、今日はもう遅いから明日からだね」


「二人とも、明日から頼んだよ、今日は休んでいってくれ、妻がシチューを作ってくれている、妻の料理は絶品だぞ」


二人は、その言葉に依頼ではあるが、少し心躍らせるのであった。


そうして、翌日の事、二人は牧場の隅々を探し回ることにした。エドモンドは何かを探したり、足跡を見つけるといった事にはとんと心得が無い。

しかし、アルバートは地頭こそ悪いが、野生のカンと言うものだろうか

そういった何かを探し出す事に対しては妙に聡いのであった。

そんなわけで山羊泥棒の足跡を先に見つけたのは案の定アルバートだった。


「エド、こっちだ見つけたぜ! ほら村へと反対側に行ってる、それにこの引きずった跡は山羊じゃねぇか?」


「ふむ、この足跡、4足歩行……歩幅、爪痕なんかを考えて」


見つけた足跡は何かを引きずった跡と4足歩行の動物と思しき足跡であった

エドモンドは何かを探したりする事は出来ないが。

何かを調べる鋭い観察眼、そしてそれによる解を導き出せる知識を持っていた。

それにより山羊を泥棒した犯人をある程度まで特定する。


「多分、動物……かな?」


「動物か、ま、気合でどうとでもなるだろ!」


「だといいね、この足跡の所に罠を仕掛けておこう」


「おう、任せといてくれよ……っと、こんなもんか」


アルバートはスカウト用ツールを巧みに駆使して、罠をつけていく。

何かを探す事以外にも、案外とアルバートはこういった器用さを求められる罠作りも彼は得意としている。彼が仕掛けたのは踏んだ物を挟んで捕らえるトラバサミだ


「ほんじゃま、後は罠にかかるのを待つだけだな」


「そうだね、願わくば、夜に出てくる動物じゃないといいんだけど」


「ま、そういうのは後にして、昼飯にしようぜ」


二人は休憩をとるべく、モーガンさんの元へ一度戻るのだった。




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