「蛮族退治は! 遺跡探索は!」 「ないよ文無し」

さて、エドモンドがロリコン疑惑を親友に抱かれてから数分。

そうすれば、店主はドアを開けて帰ってきた。


「ただいま、お母ちゃん帰ってきたよ!」


入ってきたのは、少女と同じように狼の耳をした女性だ。

その体は豊満で大人の女性の色気を漂わせていた。

現にアルバートはその胸を見つめ生唾を飲んでいた。


「おや、そっちの男二人は誰だい? 特に黒いの。私の胸が気になるかい?」


女性は自分の胸をこれ見よがしに強調してアルバートに見せつける。


「いえ、すんません! 実に立派な、おp……じゃなくてですね」


アルバートは凝視していた胸から目をそらし。下手な言い訳をしようとするが。

失敗に終わってしまう、それを見て溜息をついてから、エドモンドが話し始める。


「貴方がこの店の店主ですね、私はエドモンド、こっちのスケベはアルバート。

私達は冒険者として登録がしたくてお伺いしたのですが」


「私、離さなかったよ! 偉いでしょ! 褒めて褒めて!」


「おおー、さすが私の娘だ、いい子いい子、で登録だっけ、いいよ、歓迎するよ」


女性は特に何も詮索をすることなく。二人を歓迎する。


「実は私は一度……え? いいんですか、そんなあっさりと……」


「いいじゃないか、エド! 登録できるんならさ! これでまずは一歩目だな」


「この店は見ての通り目立つ場所に立ってなくてね、更に言えば支部として認可されたのは最近、現状冒険者登録してくれたのはあんたら二人、普段は酒場で成り立ってるのさ、部屋は二階にあるからそれを使いな、勿論お代は取るけどね」


「よっしゃ、念願のプライベートルームだぜ、実家はお袋とかがなぁ」


「それはよかったね、さて、えっと……」


「おっと、自己紹介がまだだったね、私はマリー、こっちは娘のミリーだ

母娘共々、今日からよろしく」


少女、ミリーも母親に続き、お願いしますと頭を下げる


「ええよろしくお願いします、マリーさん、ミリーさん」


「まあ、自己紹介はそのくらいで、早速、仕事、仕事を下さいよ!」


アルバートは早速、仕事を求めたのだが。


「仕事だけど、掲示板を見てくれればわかるよ」


二人が揃って掲示板を見れば、そこには一枚の依頼書が貼られていた。

正確には一枚だけ、貼られていたのである。


「お、あるじゃんあるじゃん、早速……って、なんじゃこりゃ」


「僕にも見せてくれよ、えっと『家畜の見張り:一人500ガメル』か」


これ一文だけでなく詳しくあるがそれは重要な事ではない。

ただ、これは本来の冒険者の仕事から少々逸脱しているものだった。

さて、では冒険者の本来受ける仕事とは? と問われたら二つ上げられる。

一つは遺跡探索、現在のラクシアは一度文明が滅んだ世界。

滅ぶ前の前時代、魔動機文明時代の魔法の品々は財宝と言って差し支え無い。

それらを買い手を見つけ、売りさばくのが冒険者の収入となる。

もう一つは蛮族退治。文明の崩壊の原因となった存在の討伐だ。

今はその存在は首都では見受けられないが、首都を離れた村落や都市にはいまだその脅威は残っている、これらを退治しその謝礼を受け取ったりするのだ。

また特定の蛮族は剣のかけらと呼ばれる、街を守るのにかかせない守りの剣の力を維持するのに必要な品を持っている。これが手に入る為、蛮族退治は一石二鳥

もっとも利益が見込まれる仕事と言われている。

つまり、家畜の仕事は本来の仕事ではなくアルバートが次のように文句を言うのは至極もっともなのであった。


「マリーさん! これ以外にねーの? 見張りなんざガキでも出来るぜ!」


「さっきも言ったけど、ここは冒険者ギルドの支部としても最近出来たばかりで

あまり目立つところにない、その依頼もアタシの友人が持ってきてくれたんだよ」


マリーも自身の宿をこの状況からどうにかしたいとは思っているが。

一朝一夕ではどうにかならないというものだ。


「まあ待てよ、アル、見張りを5日間するだけで500ガメル。しかもその間の御飯と宿は依頼主持ち、やって損はない、それにお前今いくら持ってる?」


「10ガメルだけど?」


「よし、受けよう。今すぐにだ、文句は言わせない」


そんな中極めて冷静であったエドモンドは依頼の内容を呼んで損が無い事。

そして、アルバートの所持金を聞いて、依頼を受けるのを即決した。


「えぇ!? 蛮族退治は! 遺跡探索は!」


「ないよ文無し」


エドモンドが持つ1200ガメルは切り詰めれば一月はいけるといった。

では、10ガメルは? その答えは今日泊まる宿にさえ困るほどと言おう。

馬小屋の隅を貸してもらうのにも足りないほどだ。

その事をエドモンドから聞いて思い出したアルバートは。


「よし受けよう! 家畜の見張りほどやりがいのある仕事はないぜ!」


掌をくるりと一回転させるのであった。


「それじゃぁ、行ってきます。場所はここから半日馬車で行った村か

必要な物を揃えて乗合馬車を捕まえて今すぐ向かうぞ、走れ!」


「了解だ! 乗合馬車の金はすまんが出してくれ!」


「お前、僕がいなかったらどうしてたんだよ!」


「んなこと言ってると、馬車に乗り遅れるぜ!」


「ええい、待ってくれよ! お前ほど肉体労働が得意じゃないんだ!」


そうして、二人は入ってきたドアを慌ただしく出ていく。

その様子を見て、マリーは一人娘の頭を撫でながら、感慨に耽る。


(お父ちゃん、ようやくウチにまた冒険者が入ってきたよ……

ちょっとばかし変な子たちだけどね)


「お母さん? どうしたの?」


「ううん! 何でもないよ、っさ、お母ちゃん、お仕事の準備あるから

おとなしく座ってられるかなー? 座れる人ー」


「はーい!」


元気な少女の声のする宿を後にして。慌ただしく飛び出しす二人。

こうして初めての依頼が始まるのであった。

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