「まさかだとは思うがロリコン?」「違うよっ!」
二人は早速、冒険者になるべくある場所を探すことにした……のだが。
「やっぱり、僕と組むのは諦めるべきじゃないかな? アル」
二人で冒険者になると決めてから、エドモンドはアルバートを呼ぶ際はかつて幼少の頃に呼び親しんだ名前で呼ぶようにと言われたので、素直にそう呼ぶことに。
さて、アルバートのいった冒険者という存在。それ自体になるのは至極簡単だ。
なんだったら、俺は冒険者と名乗った瞬間から冒険者であると言ってもいい。
その為、自由な存在であるがすべては自己責任であるのが冒険者でもある。
しかし、ただ名乗るだけ名乗って仕事をしないのであれば、それはただの無職だ。
その為、多くの冒険者は冒険者ギルドと呼ばれるものを頼る。
冒険者ギルドとは日々、多くの冒険者が集まり情報交換が行われ。
またいくつかの依頼が張り出されており、仕事を探す一助にもなる。
名が売れてくれば名指しで仕事を受けることもあるだろう。
現在この方法が冒険者となり仕事をする一般的な方法なのだが……
「ちくしょぉ! 装備もあるし、実力もあるってのになんだってんだ!」
「いくら自由業だとしても、支部には支部の面子がある、前科者を入れるのはね」
アルバートの苛ただし気な言葉に申し訳なさそうにエドモンドはそう答える。
確かに彼らは装備を揃えていた。一見装備をしていないように見えるが。
エドモンドは魔法使い、魔法の発動体として指輪などがあれば十分戦える。
アルバートも立派な剣と革鎧を装備している。
盾なんかは後で揃えるとして。当面は支障はないだろう。
問題はエドモンドが濡れ衣とは言え、殺人容疑で捕まった経歴がある事だ。
別段、穢れを内包するナイトメアという種族は差別の理由にはならない。
冒険者は先にも述べたが、自己責任が基本の職業、体が資本。
そういう意味では頑健でまた魔法に適性のある、ナイトメアはむしろ好まれる。
まあ、それも殺人容疑で捕まったという経歴がなければなのだが。
「実際にやったわけじゃねぇのに疑わしいからって、お断りはねぇべ!」
「文句を言っても始まらない、どこか受け入れてくれるギルドを探そう」
冒険者ギルドは本部と支部がある。
本部は遥か遠くの土地 奈落の壁と呼ばれる場所にあり。
支部はこのアルフレイム大陸と呼ばれる大陸全土にある。
勿論、このハーヴェス王国も例外では無い。
冒険者の多い街なら、お向かいさんが支部なんて茶飯事だ。
ハーヴェスは冒険者の需要が今まさに高く、そんな状態だ。
「はぁ……あ、エド、あれ冒険者ギルドの支部のマークだよな?」
「ええっと、うん、小さいけど、そうだね、【翠の星】か、入ってみよう」
「今度こそ、無理矢理にでも登録させてもらうぞ! 邪魔するぜ!」
「あ……いらっしゃいませ……」
中はカウンターに5つの席。4人ほどで座れるテーブル席が3つ程度の小さな店。
そんな小さな店のカウンターの一つの席にその少女は座っていた。
アルバート達が入ってくると、慌てるように立ち上がり礼をして挨拶をする。
声は小さく、おどおどと怯えた表情、おおよそ客に見せるべきとは思えない。
栗色の髪の毛をしており、これまた同じような目の色の少女。
これだけならば特に個性のない、どこにでもいる存在だっただろう。
しかし彼女には他にない特徴があった、狼の耳がついていたのである。
この世界ではリカントと呼ばれる種族だ。
特徴として肉食の動物の耳を持ち優れた身体能力を持つ。
また頭部のみを獣の顔に変じ、超人的筋力を発揮する事も出来る。
「どうも、僕はエドモンドって言うんだ、店主はいまご不在かな?」
「あん? どういう事よ? この子しかいないなら、この子じゃねーの?」
「いやどう考えても違うだろ、ちょっとは考えてくれよ。まず彼女の身長は130くらいかな? 対してリカントの女性の身長平均は160程度、まだ子供だろうね彼女は。それに彼女は酒場だというのにエプロンや髪を抑える帽子や三角巾の一つもしていない、ずぼらでいい加減な冒険者相手なら気にする必要無いなんて店はあるかもだけど、この店はそうじゃないと思う、その理由はこの店がかなり掃除が行き届いているという事からだ、きっとそこらへんは徹底されてるんだろう。そして僕らを見た時、一瞬声を上げてからいらっしゃいませと口にした。接客に慣れていないと思える。だから彼女は店主じゃない、大方店主の娘?」
アルバートがエドモンドにそう尋ねれば、立て板に水といった具合にエドモンドは語りだす、事実それは的を得ていた、彼女はこの店の店主の娘であった。
「本当お前ってこの手の観察好きだよな、まあいいや店主は?」
「お母さん、今、お買い物、人が来たら、聞いてくださいって」
「聞いてくださいって、何をだよ!」
「ひぅ……大声怖い」
「アル、子供相手に凄むなよ、多分要件を聞いてくださいって事かな。だとしたら僕らは冒険者登録がしたいんだ、ここは冒険者ギルド本部の認可を受けている支部だから許可さえあれば出来るはずだよね、店主とお話ししたいから待ってても?」
「えっと、うん! 冒険者登録したい人が来たら、絶対に離さないようにって
お母さん言ってた!」
少女はエドモンドの手を握るとそれを離すまいとぎゅっと握るのだった。
「いや、別に手を握らなくてもいいと思うのだけど、まあ、いっか……」
「なぁ、エド」
アルバートはいつの間にか、カウンターの一つの席に座り、捕まっているエドモンドに話しかける。
「なんだい? つか一人だけなんで座ってるんだよ」
「投獄されてたからって子供はないよな? まさかだと思うがロリコン?」
「違うよっ!」
エドモンドがそう否定するが、店主が返ってくるまで、少女の手がエドモンドから離れる事も離そうとする事もなかったのであった。
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