「今日から冒険者だ!」「変わらないな……君は」

ハーヴェス王国の首都にある衛兵の詰め所兼刑務所。

その門前に一人の青年……エドモンドが立っていた。


「本当にすまなかった、君には散々酷いことをしてしまった」


衛兵は青年に深々と頭を下げていた。かつて3年前彼を逮捕した男だった。


「いえ、謝らなくて結構、失った時間は貴方が頭を下げても帰ってきませんから」


青年は低く重い声音でそう言い放つ、かつての優し気な雰囲気は鳴りを潜め。

目元は3年もの牢獄生活で伸びてしまった前髪とナイトメアの象徴たる角を隠す帽子が隠しており、陰鬱としたものを纏わせていた。


「それでもだ、殺人容疑をかけられ3年、長きに渡る審議の結果がああなるとは」


彼は3年前に殺人の罪で逮捕された、理由なんてのはナイトメアだからで事足りた。

しかし彼の育ての父親はこれに断固として意見し再三にわたる裁判が行われた。

そして3年と言う長い年月を経て。証拠不十分で無罪を勝ち取ることに成功

今日この日釈放が決定されたのだ。


「本当そうですね、それを証明してくれた、僕の恩人はもうこの世にはいないのですがね、親孝行出来なかったのは……悲しいな、さて、もういいですか?」


しかし、そんな無罪を勝ち取ってくれた、恩人たる育ての父親は出所が認められた数日後に息を引き取ってしまったと知り合いに聞かされていた、過労が原因だと。


「ああ……何か困った事があったら、いつでも相談してくれ」


衛兵が最後に言った言葉を聞き流し、街へと足を踏み出す。

この首都ハーヴェスには街中に幾重にも水路が張り巡らされている。

国の許可が必要だが船を使った「渡し屋」なる職業もあるほどだ。

青空市場なども水路と路地両方に面しており、この国の活気を彩る。

そんな賑やかな街並みも、今のエドモンドにとっては苦痛でしか無い。


「これからどうしたもんか……」


エドモンドは懐から出した袋の中身を見る。

中身は1200ガメル。この国、ひいては世界共通のお金だ

釈放された時の為にとこの日まで父が残していてくれた物だ。

これだけあれば切り詰めれば一月は生きれる。

その間に仕事を見つける必要があるのだが。

無罪とはいえ、一度逮捕された身。前科を疑われるだろう。

生みの親は今どこにいるやも全く知らない、まあ死んでしまったと考えるべきか。

ナイトメアの出産で母親が無事である可能性はほぼ皆無であるからだ。

父方ならば生きているやもしれないが、自分を捨てた奴を父と思うわけもなし。

育ての父の知り合いならばと思うがナイトメアの自分では迷惑をかけてしまう。

別の国に行くという手もあるが。その移動費の分、仕事を探す期間は短くなる。


「こりゃ、八方塞がりって奴かな」


帽子で顔を隠しながら、目だけで周りを見る。

今の彼には周りの奴全てが羨ましく見える。

市場で声を張り上げる商人。

客を乗せて船を漕ぐ渡し屋。

隣をただ通りすがる人でさえも

うなだれていても仕方ないなと前を向いたそこに……彼はいた。


「エド……エドだよな! 久しぶりだな! やっと見つけたぜ!」


そこにはかつての旧友、アルバートが立っていた。

まるで昨日あったかのように幼少の頃の呼び名を使って歩み寄る

顔立ちこそ大人へとなりつつあったが。そこぬけに明るく、いまだ負け知らずといった笑顔だけはエドモンドは見間違えなかった。


「アルバート……」


「おいおい、声が小さいぜ! それに昔みたいにアルって呼べよ!」


久しぶりに会ったにもかかわらずかつてのままと言った様子で距離をつめる。

エドモンドはそれに躊躇ってしまう。自分は彼と友人でいる資格はあるのかと。

無罪とは言え、世間では前科者扱いの自分は未来ある彼の邪魔になるのではと。


「おーい、どしたよエド? 腹でも減ってるのか?」


「いや、お腹は空いてないよ……それにしてもどうしてここに?」


「おう、よくぞ聞いてくれた、俺はな……家を出てきた!」


その言葉に耳を疑う、家を出た? 

彼は自分の記憶が正しければ15歳のはずだとエドモンドは思うのだった。

15歳は既にこの世界では成人とみなされる。

パン屋の息子である彼は家の仕事を継いでても可笑しくない。

そうでなくてもパン屋として修業也しているはずだ。

今一度、エドモンドはアルバートを見る、すると一本の剣が目についた。


「アルバート……君は15にもなってまだ木刀を振り回してるのかい?」


それはかつて幼少の頃アルバートが振るっている木刀のように見えた。


「ちっちっち、木刀なんかじゃねーよ、真剣だよ、俺、冒険者になったんだ」


舌を鳴らし、エドモンドの前に人差し指をたて、左右に振るう。

そして、腰の剣を手にかけ、少しだけ鞘から引き抜く。

確かにそこには鉄の剣が収まっていたのだった。


「ぼ、冒険者って、パン屋は! あの店は誰が継ぐんだ!」


「俺よりも優秀な弟子がいるって、親父が言ってたよ」


「で、俺は騎士になる為に名を売るために冒険者になるって、言ったのさ」


「親父にもお袋にも納得いくまで頑張れって言われた、それと聞いてたんだ」


「今日出所するって、もしかしたら会えるかなって、そしたら会えた」


「俺、待っていたんだ、こうして会える日を、もう3年も経っちまった……けど」


「やっと、あの日の約束が果たせた、そんでさ……」


「俺はまだ夢を諦めちゃいねぇ、そんで、それにはお前の力が必要だ、だからさ」


「俺と一緒に来てくれ!」


そうやって、アルバートはエドモントに手を差し伸べる。

その手を見ながら、エドモンドは頬を涙で濡らした。

自分のことを覚えてくれてる人がいた。待っててくれる人がいた。

3年も待たせた、3年越しの明日で再開を果たせた。果たしてくれた。

そして、彼は夢を果たすために僕の力を必要としてくれる。

その事に言葉が出ないほどの嬉しさから、ただただ涙を流すのだった。


「お、おい!? どうした、なんで泣くんだよ、俺変なこと言ったか?」


「ごめん、言ってないよ、うん、その誘いだけど僕の方こそお願いしたいくらいだ君の騎士になるその瞬間をその隣で見させてもらいたい」


「ああ、そんじゃ決まりだ! 俺達は今日から冒険者だ!」


エドモンドはアルバートが差し出してくれた手を取る

するとその手を天高く揚げて大声で叫ぶ、その叫びは周りの人を振り向かせた。

アルバートはすぐに手を離して下ろすと、その顔を真っ赤にするのだった。


「変わらないな……君は」


エドモンドは一人呟く。アルバートは聞き返すも

エドモンドは適当にはぐらかすだけだったのだった

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