2話・初めての魔力解放
「じいや、じいや、今僕たちはどこに向かっているの?」
「ふぉふぉ、今儂らはご当主様の別荘に向かっているのですよ」
「へー、別荘かー」
体に比べ大きな頭を傾け聞いてくる姿に、思わず頬が緩む。吸魔の指輪をつけることで高熱は完治し気力を取り戻していた。あれから3年が過ぎ、現在……ワードン王国の伯爵家別荘宅。
一王国の伯爵家である。広大な領地を与えられ別荘宅だとしてもとてつもなく広いのだ。
「じいや!じいや!魔法教えてくれるってほんと?」
動きやすいようにと用意された服に身を包んだルアノが飛び跳ねている。
「そうじゃな、儂の命はご子息様に勉強と武術、魔術を教えることですからな」
「……武術?魔術?」
首をかしげ、ぽかーんとしている。
「ふぉっふぉ、申し訳ない。強くなる方法の事ですじゃ」
「強くなれるの!前話してくれた賢者様みたいに!」
ぱっと表情が明るくなり興奮している。この子が言う賢者様とは、読み聞かせた龍を倒す冒険譚の絵本に出てきた主人公である。子供が勇者や魔女に憧れるのは貴族も平民も同じなのであるが、全ては素質が有るかどうかであった。そして爺やが教えるのは何よりもこの子に魔力の素質が有るからであった。
「ああ、成れますとも。ご子息様が努力を積められればでございますがの」
その可愛らしい姿から頬が綻び口調が無意識に少し変わる。
「よーし!僕頑張るからね!」
「ふぉっふぉっふぉ、それでは…今日からでも始めますかな?」
この別荘は別宅とはいうものの館と呼んでいい程大きく、庭……と言っていいのかも分からない位広大であった。だからこその引っ越しであり…王都の実家がどれだけ敷地が大きいとしても、魔術の鍛錬をするには危険性や敷地の面積が足りないのである。
「わーい!どりょくだ!どりょくだ!!」
喜ぶ気持ちが抑えきれないのか、スキップをしてはしゃいでいる。
爺や、アンドリュー・ヌングは王宮お抱え魔術師の家系に次男として生まれ王都魔導学院を卒業。現在は……目に入れても痛くないと思える自称弟子を育てている。絵本の冒険譚で弟子という言葉を好きになったのだろう。見てくれは可愛いものだが、内に秘める魔力量は未だ自分には届かないものの成長すれば直ぐに追いつくレベルである。王宮お抱えの自分にである……
オッドアイの瞳を見て考える。魔眼持ちは一定数生まれるが、大体の場合は何かしらの属性と相性が良い等さほど強力な物では無い。後は解析や鑑識のスキルを生まれながらに持っているなど。
「それでは…昼食のあと庭に出ましょうかの」
「うん!!」
豪華な装飾が施された10人以上座れるであろう長机が吹き抜けの大広間に置かれている。 しかし、席に着くのは爺やとルアノの2人であり流石に1人で食べるのは教育上良くないとの事で、本来執事が同席する事などありえないのだ。教師を兼任しているという立場も有るからこその特別待遇でもあるのだが。現に周りの使用人はせっせと今も働いている。
「それでは、鍛練を始めようかの。今日は初めてだからの…そうじゃ、魔力操作から始めようかの」
「まりょくそうさ?」
「ふぉっふぉ、そうじゃよ。魔力操作は魔力を感じそして意のままに動かす為の訓練じゃ」
「わかった!」
「それでは始めるかの、先ずは両手の手のひらを向け合わせるんじゃ。そこへ全身の血液を集めるように……」全身が淡く発光を始め、光が徐々に両手の間へ集められ凝縮されてゆく。
「こんなもんかの」
体を屈め集まる様子を凝視していたが、興奮が収まらないのか騒ぎ始める。
「じいやすっごいな!!僕もそれやる!!」見よう見まねで両の手を向かい合わせ、瞳を閉じると……左眼から魔力が零れ出す。
「むむむむ、何かおめめがあつくなってきたよ?」
おお、開眼したか……これは暫し様子を見るしか無いかの。
零れ落ちた紫色の魔力が全身の流れと混ざり合い、両の掌に集まり紫色の球体が出来上がっていき……止まる様子がない。吸収しきれなくなった吸魔の指輪に亀裂が走り、全身から紫電が放たれる。
「ご子息様、もう結構ですぞ。素晴らしい魔力にございます」
「はぁっはぁっ、ほんとに!!僕すごい?!」
汗を流し、肩を上下させながら飛び跳ねる。
「ふぉっふぉっ、本当ですぞ。賢者様も夢ではありませぬ」
これは嘘では無く、本心からであった。もう既に先程の魔力量は質では劣るものの軍の魔導兵に勝るとも劣らないものであった。魔力量は先天的な素質に左右はされるものの、鍛錬によって増やすことは出来る。それなのにも関わらずである。
「けんじゃさまに!ぼくがんばるよ!大きくなったら龍をたおすんだ!!」
「そうかそうか、それならば腕輪でも依頼しようかの。」
「いいよ!色んなものを作ってあげるね!!」
龍の装飾品はランクの高い個体が素材であれば、国宝として国に管理される事もある品物である。この男、現金な奴であった。
「ふぉっふぉっふぉ、それでは館に戻って座学をお教え致しましょう」
「えええええ…」
一目で分かる程に萎縮するルアノであったが、識字率がさほど高くないこの世界で7歳にして学習が出来るのはとても贅沢な事であった。が……やはり子供にとっては座ってお勉強は好きで無いものであった。
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