『闇に祝福された男の子~いや、小人族だから!!~』

ふわってぃ

1話・闇の魔眼を持つ子

「爺や……何してるの?」


顔にはしわが寄り、髭と髪は白く染まってはいるものの身だしなみはきれいに整えられている。見る人が見れば皇室に使えていてもおかしくない人物だと一目で分かるであろう。だが……。

ここは………。脱衣所の前であった。

「何と言われましても…お坊ちゃま、何かございましたか?」

え、どうしたの?当たり前でしょ?と言うかのように呆けた顔を向けてくる。

「はあ、、取りあえず入ってこないでよ。分かった?」

もう元服は過ぎている、当たり前の反応であったが。残念ながら彼には通用しない。

「少し前ならば爺やと笑いながら跳び付いてくださったのに……。」

およよ……。と声を漏らし分かりやすく嘘泣きをする。

「いつの話だよ……。」

「ふぉふぉふぉ」


極東教会 種族創造神話

偉大なる大精霊と大悪魔によって世界が創られ、その中で原始の人族、巨人族、小人族、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、が誕生した。それぞれの各種族は領地を持ち族長が王として君臨した。教会はこの年を王歴1年と定めている。

 現在、王歴1825年 小人族 ワードン王国 エヴァーリッヒ伯爵家 邸宅


コンコン と重厚な扉をたたき、入室の許可を確認すると部屋に入る。

「党首様、お久しぶりでございます。ご活躍王都まで届いておりますぞ」

手を左右に広げ 武器を持っていないことを示し、片足を前に伸ばす。目上の人物に対する貴族の挨拶をする。洗練された動きであった。

「ほっほっほ、相変わらず貴殿は世辞がうまいのう」

 白銀の装飾を身に付けた、恰幅の良い体が上下に揺れる。

「ご謙遜を、してこの度のご用件は?」

「おお、そうじゃったな。この度王都でも有名な魔術医である貴殿を呼んだのは先に生まれた我が子の診察をして欲しいのだ」

「ご子息様ですか…お医者様には診て頂いたのですか?」

勿論ここで言う医師とは科学を使う者のことである。

「ああ、診てもらったよ。しかしだな謎の高熱の原因が解らんのじゃ。そこでお主の出番ということだ」

「成程…了解いたしました。診てみましょう」

暫し綺麗に整えられた顎鬚を触りながら思案する。

「おお!そうか、診てくれるか。報酬は弾むからの!期待しておいておくれ」

「ふぉっふぉっふぉ、心配しておりませんよ」

にかっと厭らしく笑うと片眼鏡を掛け直す。俄然やる気が出たのか、動きが俊敏になっているだった。

「お坊ちゃま、ご安心ください。お医者様ですよ」

 そこには3人のメイドと思われる女性がせっせと看病をしている。

「ほほう……。ルアノ・エヴァーリッヒ 4歳 三日前から38度を超える高熱…。」

カルテを読み込みながら頭を巡らせる…前の医師が科学的な処置を一通り終わらせている様だった。

これは……どうすればいい。科学的療法が効かないのであれば、取り敢えず魔術的に診断するしかない…。

「せんせい……。ぼくのびょうき、なおるの?」

あどけない言葉使いで話しかけてくる。

「大丈夫じゃよ、わしが直すからの」

確証はないものの、うるうるとした瞳を向けられてはそう答えるしかなかった。

「ほんとう……。おねがい」

「ふぉふぉ、任せなさい。では、手を置くが…安心して寝ているのじゃぞ」

両手を鳩尾辺りに添えて魔力を身体に流し込み、薄く広げていく。徐々に淡い青緑色の光が全身へ広がっていき……これは……。

左目に差し掛かった所である違和感を覚える。何かが反発してきているような…まるで凝縮された魔力の塊……。鑑識のスキルを使う為に頭部へ手を移し、発動させると……

 <鑑識Lv6発動> 

 青色の光が手の甲に集まっていき、解析が進められる。

<解析結果  魔眼・闇の祝福>

「っ!!」

魔眼じゃと!…これは拙いのではないか。闇属性の魔眼は悪しき物とされていたはず。もしここで伝えたら……この坊やは……。

「党首様、ご子息様は…強大な魔力量を秘めているようでございます。その為に使い余した魔力がお体を蝕む様で……。」 

嘘ではない…が全てでは無い。

「そうなのか!では…治るのかね?」

「それでは…考えが一つ考えがございます」

伸ばした顎鬚を触りながら思案する。

「ほほう、申してみよ」

「はい、恐らく症状は元凶である余りに余った魔力を使わない限り治まらないでしょう。であるならば使えばよいのです。よって、この…」

 少々アイテムポーチをまさぐると禍々しい指輪を取り出す。

「魔吸の指輪 を使うのが良策かと。」

「魔吸の指輪とな?」

「ええ、この指輪には装着者の魔素を吸い取る呪いが掛けられているので、ご子息様にはめれば余った魔力を吸収してくれるでしょう」

「成る程のう…あい分かった。その指輪をはめよ」

「承知いたしました」

そっと彼の手を取り、人差し指にはめる…すると……。

「こ、これは…」

皆が息をのむ中、真ん中にはめ込まれた宝石が赤紫色にぼんやりと光り始め……。突然体中から同色の光が宝石へ吸い込まれていき、一際眩しく点滅し淡い光に戻る。

少しずつ唖然とした空気が元に戻っていき…

「お、お坊ちゃまが!!ご、ご当主様!!」

歓喜と安心からだろう、涙が零れ落ちていた。

「ふぉっふぉっふぉ…一件落着ですな」


しかし、魔眼はどうするかのう。闇属性の物を敵視しているからのお……数少ない先天的な魔眼持ちの上に闇の祝福ときた…必ず行動をおこすじゃろう。もしかしたらデルムント皇国までもがてをだしてくるやも知れぬ……。

「ご当主様、お願いがあるのですが。」

「ほう、何だね。今回の件もあるからの、余喜に計らうぞ」

「ありがたき幸せにございます。単刀直入に申します。私めをお坊ちゃまに付ける執事として雇って頂けないでしょうか」

 昔亡くした我が子を重ねていることに未だ気づいていない。

「良いだろう、お主は確か…王都の魔法学校と武術の心得も有ったはずよのう。家庭教師と護衛、お付きの医師にもなるではないか。こちらから依頼したいくらいじゃ」

「有難う御座います…」

これから忙しくなりそうだわい……。

幸せの忙しさだった。




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