第6話 休日のデート(違う)

 今は日曜日の9時半。学校もないのでゆっくり寝ようと思って少し遅くに起きてしまった。昨日北海道から東京にとんぼ返りしたためまだ体の疲れが残っていた。


「眠いな。寝よう」


 初めての情報が山ほど昨日俺に流れ込んで来たので脳の処理が追い付いていないのかな、なんてしょうもない言い訳を考える頭はあったが眠気には勝てない。二度寝コースを選ぶことにした。




「……そろそろ起きるか」


 時計を見るともう11時。あれから2時間くらい寝てしまっていた。朝昼兼用の飯になってしまうがまあ別にいいか。


「伯父さん、はもう仕事行ってるよな」


 時間も時間なので当然いない。朝飯が準備されているわけもないので重い腰を上げてベッドからガバッと起き上がった。ある程度の身だしなみを整えて近くのスーパーマーケットに向かった。



「こっち側のスーパーは来たことなかったな」


 いつもは家と反対側のコンビニばかり利用しているので新鮮に感じた。何でコンビニに行かなかったって? 昼食(朝食)のついでに試さないといけないことがあるからだ。


「やっぱり広いな。日曜日だからかな」


 カゴを手に取り店内を散策する。飯は何でもいいので店入ってすぐ手前にあったサンドイッチをカゴに入れた。その足で今日の目当ての洗剤コーナーに向かう。その一角は一人を除いて人がいなかったので色々物色できる。


 ん? あの美人な人…… もしかしなくても八重樫さんだ。淡い水玉模様のスカートにラフなTシャツ姿と、女の子らしい私服で制服とはまた違った感じであった。


「声かけた方がいいのかな」


 戸惑っていると向こうもこちらの視線に気付いたのかこっちに顔を向けた。しかし驚いた表情を一瞬見せてすぐ目を背けてしまった。俺もついでに。


 3分ほど膠着状態が続いたあと、ようやく口を開いた。


「あの、八重樫さん…… だよね?」


 俺の方から声をかけると即座にこっちを振り向いた。


「やっぱり、崎人君だね。人違いだったら困るから中々声かけられなかったよ」

「いやいやこっちこそ目合ったのにすぐ話せなくてごめん」

「い、いやいやそんなこと! 全然気にしてないから!」


 声すらまともにかけられないヘタレと思っていないようで安心した。というか彼女がそんなこと思うはずがないだろうに。


「今日は何しているんだ?」

「ちょっとお母さんに洗剤のお使い頼まれて来たんだけど崎人君に会えるなんて思わなかったよ、えへへ」


 ニコッとはにかんでこちらを見つめる八重樫さん。ものすごく可愛い。こんな子が本当に幼馴染なのかつい疑ってしまう。


「崎人君はどうしてここに?」

「ああ、そのことなんだが…… もう先に言っといた方がいいか。今ちょっと話せる?」

「う、うん。大丈夫だよ」

「じゃあ店の前で待ってるから買い物終わったら声かけてくれるかな」


 俺は目当ての洗剤数点を買い物カゴに入れて会計を済ませた。その後店先に待機しているとものの数分で彼女は出てきた。


「ごめんね、待ったよね」

「いや、全然待ってないよ」


 お世辞抜きで。むしろ急かしたようで逆に申し訳なくなる。


「それじゃあ時間も時間だし喫茶店でも行かない?」

「もうお昼手前だったんだね、気づかなかったよ。行くの初めてだけど楽しみだよ」


 自分用の飯は買ったものの話さなければならないことが山積みであるので今日は喫茶店でお昼を済ませることにした。ここから店まではやや距離があるので一緒に歩いて行くことにした。


「……あれ!?」

「うぇ!? ど、どうしたの崎人君」

「あ、ごめん。何でもない。びっくりさせてすまない」


 思わず声が出てしまったが…… これってデ、デートってやつでは!? いやいや落ち着け、佐藤。彼女はただの幼馴染、変な気を起こすな。けど感覚的にはデートなんだよな…… いかん! 会話でもして紛らわせよう。


「そ、そういえば名倉さんたちは? 今日は一緒じゃないの?」

「撫子ちゃんたちは皆今日予定あるらしいから誘えなかったんだ。暇なのは私だけだよ」

「そうなんだ。新学期まだ始まったばかりなのに大変だな」

「もう少しゆっくりしてもいいのにね」


 とはいいつつも俺は昨日まで東京に居なかったからおそらく俺が一番忙しかっただろうけど。


「あ、ここかな?」


 ものの数分で喫茶店に到着した。今時の流行を押さえた感じではなく、レトロな雰囲気を全面に押し出している。


「ちょっとこじんまりし過ぎかな? 別の所にする?」

「いや、大丈夫だよ! ここにしよう」


 そう言ってくれて安心した。俺自身がガヤガヤしたのが好きではないというのもあるが、隣にこんな美人侍らしていてクラスメートにでも出くわしたら、明日から俺の安全が保証できないからだ。

 入ろうと扉に手を掛けようとすると中から声が聞こえた。


「皆! ちょっと遅れたけど入学おめでとう! 青春を謳歌しようぜ、乾杯!!」

「「「カンパーイ!!!」」」


 声だけで分かる、この楽しげな雰囲気を作り出している人物。念のため小窓から覗くとそこには先日俺が置き去りにした辰芹拓憲、ニックネームはタク、がいた。その周りにはたくさんの男ども、確かクラスメートだった気がする。


「ま、まずいぞ……」


 フラグをしっかりと回収してしまった。よりにもよってタクに見られるのが最悪のパターンだったのに。


「楽しそうだね、入らないの?」


 入りたいよ、本当はワイワイしたいけど今の状況では無理だよ。仕方ない、今日は諦めて……


「あれ? 崎人じゃねえか?」


 見つかっちった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る