第5話 指輪の解除方法

「なるほどあの指輪か」

「もしかして知っているんですか?」


 研究所内を歩きながらあらましを話すと知っている風の言葉を漏らした。


「知っているも何も前に采耶が俺に見せびらかしていたな。友美ちゃんへの婚約指輪だぞー、ってな」

「えっ!」


 初耳だった。俺が今まで身に付けていたのは両親の誓いの指輪だったのだ。


「で、でも母は普段からこれとは別のシルバーの指輪をしていましたよ」


 そう、その話が本当ならば矛盾が生じる。なぜ指輪が二つもあるのか。お父さんがまさか二股なんかするわけないし。


「ああ、実はな。アイツ一回フラれているんだよ」

「それって別の女性に?」

「違う違う二人は相思相愛だったんだが采耶の方が愛が重くてな」


 それは普段の生活から見て分かる。覚えている限り喧嘩の一つもしたことないからな。イチャイチャしすぎて少しうんざりしたこともあったし。


「ものすごい小細工施した指輪をプレゼントしようとしたから俺が制止して普通の指輪に代えたんだ。つまり今の状況はある意味俺のせいとも言えるな」


 だからと言って円さんを憎むつもりは毛頭ない。そのときはお母さんが被害に遭っていたのだから。というかお父さん何作っているんだよ。

 

「あのバカ兄貴何作ってやがんだ」


 流石伯父さん、思ったことがそのまま口から出るタイプなんだな。知っていたけど。


「で、その小細工ってどういうもの何ですか?」

「ああ、それが本題だったな」


 聞き漏らすまいと耳を円さんに集中させた。


「アイツからちょこっと聞いたから不正確かもしれないが、何かの条件で男と女の薬指に指輪が自動的に装着されるっていうものらしい」


 何かの条件って何? それが分からないと何であんな現象が起きたかが理解できない。しかし又聞きの円さんにそんなこと言ってもしょうがないので出かけた言葉を飲み込んだ。


「原因はさっぱりだが解除する方法は聞いているぞ」

「それですそれです! 是非教えて下さい!」


 最悪指輪さえ離れればそれでいい。こんなもの年がら年中付けていたら冷やかされるに決まっている。


「あの指輪は何かの液体を一滴垂らさないと解除されない仕組みらしい。特殊な金属が含まれていてな」


 出た、何かのっていうフレーズ。本当に何にも分かっていないんだな。


「人に付ける物だから劇薬とかは使っていないだろうがな。ひとまずその液体が何なのかこっちで調べておく」

「あ、ありがとうございます」


 液体の同定はプロに任せてこっちはこっちでできることをしよう。 ……とは言っても何からすればいいのか見当もつかないが。


「とりあえず俺の知っている情報はこれだけだ。あまり力にはなれなかったようで悪いな」

「い、いえいえ! 謝ることないですし色々なことが聞けたので十分です」

「じゃあ話も済んだことだし帰るか」

「……研究所でも見ていきますか?」

「んー、そちらも忙しいでしょうし見てもよく分からないので結構です。円さん、今日は色々ありがとうございました」

「こちらこそ態々遠いところまで来て頂きありがとうございます。また何かあれば連絡下さい。 ……ところで崎人」

「何ですか?」

「今お前どこの高校に通っているんだ?」


 高校? なぜいきなりそんなことを。


「嵐川高校ってところですけど……」

「ああ、あの人気の高校か。よく入れたな」

「まあ、勉強頑張ったのでなんとか」


 実際ものすごく苦労した。倍率は5倍くらいだったらしく偏差値も鬼のように高かった。しかし当時の俺は両親失った直後であり、崖っぷちに立たされていたから勉強以外にかまけている余裕はなく、逆に集中できたのである。今はそんなことできないけどな。


「それがどうかしましたか?」

「いや、なんでも。ただの興味本意だ。それより早く帰らないと電車に乗り遅れるぞ」

「そうですね、それではありがとうございました」


 俺たちは円さんと別れ、研究所を後にした。その後北海道散策でもしようと伯父さんは言い出したが、俺にとっては見慣れた光景である上に長旅で少し疲れたので早く帰りたかった。というかこの人も明日仕事だろうに。


「崎人」

「何?」

「お前面倒なことに巻き込まれちまったな」

「……まあね」


 帰りの飛行機の中でそんなことを呟く。多少の眠気はあったが言いたいことがあった。


「でも俺はある意味チャンスだと思っているんだ」

「チャンス?」

「うん。この指輪に俺のお母さんたちの秘密が隠されている気がするんだ、勘だけど。交通事故ってのがやっぱりまだ信じられないからさ」


 実際に遺体を見たわけではない。伯父さんから聞かされたから実際はどうか分からない。


「伯父さん……」

「どうした崎人?」

「……いや、なんでもないや」

「何だよ、気持ち悪いな」


 何か隠してない? そう出かかった言葉を飲み込んだ。ここで問いただそうと思えばできるかもしれない。しかしそうはしなかった、正確にはしたくなかった。お父さんたちの形見の謎は自分で暴きたかったからだ。

 

「それにしてもあまり手掛かりは無かったな」

「まあ、ゆっくり見つけていけばいいさ。先は長いんだし」

「それもそうだね」


 そんなことを話しながら俺たちは家に帰還した。月曜日からは本格的に学校が始まる。指輪も謎が残っているが一旦置いて勉強なり部活なりに意識を向けよう。そのためには休憩が必要ということで午後11時30分、俺はベッドにダイブした。





「崎人、大きくなっていたな。 ……嵐川高校だってよ。どうする? マリア」

「…………」





 

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