第4話 研究所
眠い。ただその一言に尽きる。朝の五時は流石に眠い。色々回るところがあるのでこのくらいじゃないと間に合わないのはそうだがこの時間帯に慣れていない俺はうつらうつらしながら空港に向かう車内にいた。
「おーい、そろそろ着くぞ」
昼だけでなく早朝にも漁をすることがある伯父さんにとってこのくらいの眠気どうってことない。寝ぼけ眼で飛行機に乗り込むと同時にアナウンスもガン無視で二度寝をし始めた。そして再び目を覚ましたときには遥か上空にいた。
「ったく、ようやく起きたか。高校生になってそうそうこんな様子じゃ思いやられるな」
いやいや早朝ということもあるけど昨日濃厚すぎる出来事があったんだから仕方ない。俺の脳が処理を頑張ってくれていたんだし、というような言い訳を頭に浮かべながら脳を覚醒させる。
「あとどのくらいで着くの?」
「二十分くらいかな。それにしても俺飛行機初めて乗ったけどなんかワクワクするな」
アラフォーの伯父さんだが少年のように目をキラキラさせていた。飛行機は東京に来るときに一回乗ったしさほど珍しくも無いのでリアクションが新鮮に見えた。
「それよりも目当てのところって空港からどのくらいにあるんだ?」
「電車で大体三十分程だよ。意外と近いでしょ」
「いや、東京で考えたらかなりの長時間だぞ」
「あれ、そうかな?」
感覚がまだ東京に馴染めていないのか、少々のズレを感じた。そんなことを話しているといつの間にか機内からアナウンスが流れてきた。飛行機から降り、北海道に再び足を踏み入れた。
「ん~! 全然久しぶりじゃないな!」
「だろうな、まだ一ヶ月も経ってないからな」
まさかこんなにも早く帰省するとは思わなかった。ひとまず電車で切符を買い、目的地の佐藤科学研究所近くの駅まで向かった。
「そういえばお前は研究所に入ったことはあるのか?」
「あるよ。でも危険なものがいっぱいあるって言われたから入口近くしか入ってないけどね」
今から向かう研究所は俺の母佐藤友美と俺の父佐藤
「へー、中々立派なところじゃねえか」
研究所は広大な面積を有しており、最近設立されたこともあって白く輝いて見える。これをたった二人から作り上げたのだから改めて俺の両親はすごかったんだなと痛感した。
「そういえば今は誰が経営しているんだ? 二人はもうこの世にいないんだろ?」
「確か設立当時のメンバーがそのまま引き継いだってホームページに載ってた…… ってあれ? 伯父さんアポ取っているはずだよね? 昨日やっとくって言ってたような……」
「……崎人」
「何?」
「男はな、出たとこ勝負を仕掛けないといけない場面もあるんだぞ」
「それは確実に今じゃないけどね」
全くこの伯父は…… ちょっと抜けているところがあるんだからなぁ。アポなしで入るのも気が引けるしな。どうしようかと近くでウロウロしていると見覚えのある顔がそこにはあった。長髪に無精髭、今時珍しい丸眼鏡をかけており、バスケ部並みの長身があるのに白衣がヨレヨレ。一服している姿はハードボイルドを体現しているかのようだ。
「
俺はその男の人に向かって走り出した。
「ん? おっ、崎人じゃないか。元気していたか?」
俺の声に気づいたらしく向こうもこっちに近づいてきた。俺たちはハイタッチをした。とはいっても俺がジャンプをしてようやく手が届くくらい長身なのでやめてほしい。
「崎人、この人誰だ?」
「あ、伯父さん。この人は
一通りの紹介をした後円さんは伯父さんにツカツカと歩み寄った。
「初めまして、私ここ佐藤研究所で所長兼経営をしている松乃内円と申します。采耶からお噂は予予。采耶たちの意思を引き継いで研究を続けております」
強面な見た目に反してものすごく礼儀正しい円さんは深々とお辞儀をした。
「こちらこそ初めまして。兄と甥が大変お世話になったようで」
二人の大男は固く握手をした。二人の手の間にクルミを挟んだら粉微塵になるくらいガッチリとしたシェイクハンドだった。
「今日何ですけれども崎人のことについてお話したいことがございまして、是非研究所を見せて頂きたいと思うのですがよろしいでしょうか?」
適当な伯父さんだが通す筋はしっかり通す。 ・・・・・・こういう言い方だと筋モンみたいな感じになるのでやめておこう。ひとまず円さんに昨日一連の件について話した。
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