第3話 からくり指輪
え? 俺何言ったんだ? あの謎の暗号をか? つい約束というフレーズにつられて口走ってしまった。俺でもよく分からない言葉を皆知っているわけないのに。そう思っていた。
「……何か聞いたことある……かも」
「えっ!? 本当か!?」
八重樫さんが口を開くと不思議と体は落ち着いた。だが他の三人は全然ピンと来ていないようだった。
「わ、分かんないけど…… 昔どこかで聞いたような気がして…… 気のせいかもだけど」
そりゃ昔のことだもんな。不確かな方が自然だ。でもこれが本当なら……
「で、その言葉が何なのよ」
「ああ、いや、俺の記憶で唯一残っているのがその言葉でさ、もしかしたら皆知っているかなって」
「でもヤミ以外は知らないみたいね」
「ヤミだけずるいな~ 崎人に認知されていたのもヤミだけだったじゃ~ん」
「い、いやいや、崎人君とは同じクラスだったから…… ね?」
小動物的な上目遣いでこちらを見てくる。ぶっちゃけかわいい。つい見とれていた。
「はいはい、二人で見つめ合わない。ヤミ、イチャイチャしようとしないの」
「い、いちゃいちゃなんて…… そ、そんなこと////」
「ハハハハ、ヤミいじるのは楽しいな」
「撫子、それくらいにしときなさいね。ほら顔真っ赤になっちゃってるじゃないの」
すみません桂真さん、今あなたが指差しているのは俺です。俺も顔色が八重樫さんと同じになっていると思います。
「じゃ~ ヤミおちょくったところでそろそろ帰ろうか~」
「そうね、今日は元々崎人と顔合わせるだけだったし」
「えー、アタシもっと喋っていたいのに」
「もうすぐ七時で校門閉まるわよ。ほらヤミもぼーっとしてないで帰るわよ」
「……はっ! あ、うん。帰る帰る」
「あー、すまん皆。俺友達下で待たせて……」
ピロリンッ!!
喋ろうとした瞬間にスマホが鳴った。すぐに見てみると
『お前今どこいるんだ? 俺門限あるからもう帰るけどお前も早く帰れよ』
すっかりタクのこと忘れていた。というか門限って…… ああ、そういえばタクの家ってものすごい金持ちなところって言ってたな。家は厳しめなのかな? まあ全然坊ちゃまって感じしないけどな。明日しっかり謝っておこう。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。さあ帰ろう」
スマホをポケットに仕舞って皆と一緒に階段を降りていく。正直今が誰もいない放課後で助かった。この四人はタクの言うように美人な四人組であり、そんな渦中にいる俺を見られてしまったらそれはもう目立つだろう。そんなことを考えながら学校を後にした。帰る方向は皆途中までは同じらしいので皆(主に名倉さん)が俺に根掘り葉掘り聞いてきた。もちろん答えられるのは中学校時代の他愛もないことだけど。
「ところで崎人。さっきから気になっていたんだけどそのカバンの丸いの何?」
名倉さんが俺のカバンのポケットのふくらみを指差した。
「ああこれか? いつも持っている指輪だよ。母さんの形見らしいんだけど気に入っているからいつも付けているんだ」
「へー、綺麗ね。ちょっと見てもいい?」
「いいぞ、はい」
シルバーの指輪を取り出し名倉さんに渡した。俺はただただ普通に渡したはずなんだ。しかし指輪が名倉さんの肌に触れた瞬間不思議なことが起こってしまった。
『ピピ、カイセキチュウカイセキチュウ……』
「わっ!」
思わずびっくりして俺たちはどちらも指輪から手を離して地面に落としてしまった。カランと妙に甲高い音が響く。次に言葉を発したのは指輪の方だった。
『……ニンショウカンリョウ。ケイヤクヲムスビマス』
無機質な音とともに激しく指輪が光った。目が眩んで一瞬目をつぶるともう発光は収まった。
「な、何だったんだ今のは。皆大丈夫か?」
「え、ええ特には……」
辺りを見回すがただ光っただけで異常はないようだ。と思っていたが何やら手に違和感があった。
「うぇ!? どうしてここに?」
カランと落としたはずの指輪が何故か俺の右手の薬指にはまっていた。慌てて引き抜こうとしたがどういうわけか微動だにしない。勢いつけて抜こうとするとミシッと音がした。
「いててて! ぬ、抜けねえ…… なぁこれ」
助けを求めようとした俺の目に映ったのはまたもや驚きの光景だった。
「……崎人君、これ何?」
俺と同じ状況に皆遭ってしまっていた。名倉さんは親指に、萩さんは人差し指に、桂真さんは中指に、そして八重樫さんは小指にシルバーの指輪が付けられていた。
俺と同様に指輪を引き抜こうとするもピクリとも動かなかった。
「ちょっと崎人、ちゃんと説明してよ!」
そう言われても俺が何かしたわけではないので対処のしようがない。
「名倉さんスマン、俺にもさっぱり分からない。多分この指輪が原因だと思うんだけど……」
「まあそりゃそうよね、不可抗力みたいだし。ひとまず今人力で引き抜けない以上何かしらの対策を練らないといけないわね」
さすが委員長というかこんな不測の事態でも焦らずに落ち着いてる。頼りになる人だ。
「まず崎人君はこの指輪について調べてきて。あなたのお母さんの形見ということは家の中に指輪の秘密があるはずだから。それとヤミはさっきの言葉をしっかり思い出すこと。手がかりになるかもしれないからね。他の人たちは無闇に抜こうとしないこと、いいわね?」
「「はーい、ママ」」
「誰がママよ。はい、解散」
ママの合図で今日は解散となった。まだ一日しか経っていないけれども多くの情報が入り込んできて俺のキャパシティは限界だ。一つずつ整理していこう。まず北海道から転校してきてタクと友達になり、放課後に宛先人半分不明の手紙を受け取る。そして待っていたのは俺の知らない四人の幼馴染美少女。思い出話(中学から)をした後に謎の指輪の契約? をした…… 順番に並べてみても何一つ解決しなかった。むしろ謎が多すぎて混乱するところだった。足りないおつむをフル回転していたので気がついたらもう家に到着していた。今の時刻は午後七時。話が弾んだこととトラブルが生じたことで入学式にも関わらずすっかり遅くなってしまった。
「ただいまー」
「おう、遅かったじゃないか。どうだ楽しかったか? 友人や彼女の一人くらい……」
「伯父さん、頼みがあるんだけど」
伯父さんの話を遮ってまで早急に解決しないといけない事情が俺にはある。
「明日からの土日にお母さんの実家に行きたいんだ。指輪のことについて知らないといけないから」
「……友美さんのところに? それに指輪ってどういうことだ?」
そういえば伯父さんにはまだ指輪について話していなかったか。俺はさっき頭の中で整頓した情報をスラスラと話した。
「……なるほど、指輪の契約か。俺も聞いたことないな。でも早めになんとかしないといけないな」
「じゃあ明日から北海道に連れて行ってくれるの?」
「ああ、いいぞ。それにしてもいきなりあの子達に出会うなんてな」
そうだ、あの四人にサプライズ仕掛けたのは伯父さんだった。俺は記憶を失っているんだからそういうことは事前に知らせて欲しかった。そう恨めしく思った。
「案外その四人の内の誰かが未来のお前の奥さんになるんじゃないか? 指輪だし」
「な…… 何言ってんだよ伯父さん!! そ、そんなわけ……」
「ハハハ! まあそう赤くなるな。とりあえず明日五時前に出発するぞ」
「わ、分かった」
一日に二回も赤面することになるとは。ひとまず話も一段落着いたところでようやく靴を履き替えてリビングに向かった。今日のことを根掘り葉掘り聞かれたがエネルギーのほとんど残っていなかった俺は生返事をしながらご飯を食べて風呂に入って床に就くことしかしなかった。
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