5話 ついに巡り会う二人
「ったく、もうこんな時間じゃねーかよ。どうしてくれるんだよお二人さん?」
「・・・ごめん。」
「・・・。」
時刻は午後3時を回ったところか。未だ学園正門前にいる。本来ならとっくに自宅に着いていていいはずの時間だが、寮王と千夜のアニマ同士の争いを担任である羽島に目撃され説教を受けていたというのが今に至るまでの経緯である。
「まぁ、羽島のアニマに止められたものの、あれは間違いなく私の勝ちね。」
「いいや、あいつが止めてなくてもまだ回避はできた。勝負は終わってねぇよ。」
「おいおい、まだやるつもりかよ?公共の場でのアニマ同士の決闘は犯罪だぞ?しょっぴかれなくなかったら大人しくしてろよ。」
「陽介の言う通りだ。二人とも落ち着け。」
学園内ならまだしも、流石に外でどんパチされたらたまったもんじゃない。それを聞いたふたりはようやく落ち着きを取り戻す。
「分かったわよ。勝負はまたいつかね。今度も私の勝ちだろうけど。」
「今に見てろよ?今度こそ俺の〈白狼〉の剣のサビにしてやる。」
と言って寮王は俺たちとは真反対の方向へと歩いていった。どうやら王都中央駅は利用しないらしい。学園から徒歩圏内に自宅があるのだろうか。
「最初、あいつ俺に突っかかってきたくせにもう今じゃ眼中にないって感じだな。」
「だって、アニマの扱い方もわからない天才にいきがったって意味無いものね。」
「・・・悔しいけどそうだな。けどすぐに追いついてやるからな。」
そして三人で王都中央駅まで歩いていくことにした。すると、そういえばと言って千夜が話し始める。
「あの羽島って担任のアニマ、なんか変な形だったわよね。亜人じゃなくて、あれは機械かしら。」
「人型じゃないオリジナル・アニマって召喚するのは難しいのか?」
「ああ。ESSを用いないオリジナル・アニマの召喚の際、一番鍵になるのは脳内のイメージだ。そのイメージが形となって現れる。人間が一番想像しやすいのは自分と同じ形。つまり人型って訳だ。たしかに羽島とアニマも人型ではあったけど構造は間違いなく機械系統だった。」
「要するに、あの羽島ってやつ、かなりの実力者ね。オリジナル・アニマで機械構造なんて、なかなか出来るもんじゃないわよ。」
そんな話をしているといつの間にか王都中央駅に到着していた。学園から徒歩三分圏内にあるため、あっという間である。
「じゃあ、俺はテーブルタウン方面だから。」
「私と圭は旧東京方面ね。」
駅内で俺たち三人は別れた。しかし陽介があの多くの富裕層が暮らしているという、王都内でも屈指の地価の高さを誇るテーブルタウンに住んでいるとは、少し驚きである。
俺と千夜が駅のホームに降りると、丁度モノレールが到着していたところだった。二人は急いで車内に駆け込む。入ったと同時にドアが閉まり、発進し始める。
そして少しの間、二人で昔の話をすることになった。
「覚えてる?二人で公園のブランコ壊した時とかさ。」
「ああ。今思えばかなり大惨事だったな。」
「あれは圭がブランコで大車輪してやるー!みたいな感じで始まったんじゃない。」
「そういえば、そうだったな。」
「圭、なんか変わったよね。」
「え?」
思わぬ言葉を言われて、少し戸惑った。自分としては何も変わらずに、そのまま成長していたと思っていたが。どうやら千夜からしたらそれは違うらしい。
「なんか大人になった、というか。冷静になったというか・・・。」
「まあ、そりゃもう16だもんな。大人にもなっていくだろ。」
「それは・・・、そうなんだけどさ。」
千夜は言葉を詰まらせる。何か言いたげにするも、それを必死に抑え込む。
そのまま自分が降りる駅へと到着した。
少し気になるところもあるが、仕方ないので降りることにする。
「俺、ここだから。」
「え?旧新宿で降りるんじゃないの?私と家ものすごく近かったじゃない。引越しでもしたの?」
「まぁ、な。」
「そう。それじゃ。」
車内から千夜が手を振っている。そのままモノレールのドアは閉まり、発進し始める。いつの間にか千夜の姿は見えなくなっていた。
さて、帰るか・・・。
自分の現在の自宅は旧目黒駅の近くとなっている。かつてビルが立ち並ぶ都会であったこの地域も、今となっては旧式の古民家や屋敷の立ち並ぶ古きよき住宅街となっている。
そして徒歩五分。すこし高台で、街が一望できる一等地。そこに今の自宅がある。標識には〈八海〉と書かれている。
「ただいま。」
返事はない。いつもの事である。
自宅には大抵一人もいない。しかしそれは一人暮らしという訳では無い。ただ元々ここに住んでいる男が滅多に帰ってこないということである。
靴を脱ぎ二階へと上がる。そのまま自分の部屋に入り、着替えぬまま自分のベッドへともたれ込む。
そして目覚めると窓の外は真っ暗になっていた。どうやら寝てしまったらしい。時計を見ると既に午後7時となっていた。昼食すら食べていないためかなり空腹である。
一階へ降り冷蔵庫を開けるも、めぼしいものは何も無かった。
仕方ない、買ってくるか・・・。
制服のまま、また玄関へと行き靴を履く。そして外へ出て近所のスーパーへと出かけることにした。
4月といえど、さすがにこの時刻となると少し肌寒い。少し急ぎ足で坂を駆け下りる。
数分後、スーパーに到着し、適当に食材を買っていく。基本的には一人であるため、多少炊事はできる。とにかく空腹のためあまり深いことは考えずに目に付いたものを買っていった。
少し買いすぎた気がしなくもないが、まあいいだろう。
時刻は7時半。早く帰るために、普段は使わない裏路地を通って帰ることにした。すくなからずや5分帰宅を早めることが出来る。
薄暗く、街灯も少ない裏路地。
何故その日に限って、その路地へと足を運んだのか。未だにわかっていない。しかし、これもまた運命だったのかもしれない。
上の方から声が聞こえる。最初は聞き間違えかと思ったが少し上を見上げてみる。ビルとビルの間に夜空が広がり、少し星が光っている。
と思っていた瞬間。急に黒い影が現れる。なんだ?と思った頃には既に遅かった。それは急速に加速しながらこちらに落下してくる。
・・・え?
刹那。自分とその謎の物体は衝突する。
うぎゃ、声をあげる。どうやら人間のようだ。
薄暗くはっきりと見えないため、目を細めてよく確認してみる。
銀髪。そして、見た事のない異国の服装。低い身長。顔は日本人では無いことがすぐに判断することができた。
要するに美少女であった。
いや、それにしてもなぜこの少女はビルの上から落ちてきたんだ?
おい、と声をかけようとすると突然その少女の大きな瞳が開き出す。
そして俺の顔を確認するなり、そのか細く白い腕で飛びついてくる。
「やっと見つけました!!」
「・・・は?」
「あなたを探して三千里。いやはや、なんとまぁ長旅でしたよ。」
???
言語がわからないという訳では無い。正真正銘、それは日本語だった。しかし理解できなかった。そもそもこの状況の意味がわからない。
「あれ?通じてます?距離を表す時には三千里みたいな言葉を使うと聞いたんですが。」
「いや、・・・まぁ間違ってはないが。」
するとまた上空から声が聞こえる。今度は低い男性のような声だ。それに複数人いることがわかる。
「まずいです。もう来ました。」
「は?来るって、なにが?」
「敵ですよ。敵。」
・・・敵?誰の?この子の?それとも俺の?
「逃げましょう!!」
そう言ってその少女はいきなり俺の腕を掴み、一目散に走り始める。状況を未だ理解出来ぬままそのまま走り出す。買い物袋はそこにそのまま置いていくことにした。
「な、なあ!どういうことなんだよ?大体君誰?」
「私ですか?私は、そうですね。鏡の世界の住人、とでも名乗っておきましょうかね。」
「かがみ?」
言ってる意味がさっぱり分からない。そう行ってる間にも狭く薄暗い路地を駆け抜けていく。背後から複数人の足音と叫び声が聞こえる。追われているらしい。
・・・というかこの道は。
まずい。引き返さなければ。と思った時には既に遅かったようだ。目の前には壁。行き止まりである。
「ミスった。この道、行き止まりだった。」
「ちょっと、そういう大切なこともっと早く言ってくださいよ!!」
後ろを振り返ると暗闇に溶け込んだ黒服のスーツを着た数人の男迫ってきている。おいおい、これは絶体絶命って感じか?
いやしかし、話し合いで和解という線も・・・
するとその黒服の男達の右腕が蠢き出す。そしてみるみるうちに変形し始める。右腕だったはずの部位は長く鋭い剣のようなものになっていた。
どうやら、そもそも人間ですらなかったらしい。
「おいおい冗談よせよ・・・。」
間違いない。アニマである。そう思った瞬間であった。
「24586、エヴィデンスとアルバトリオンの末裔と思われる人物と接触。抵抗するならば戦闘に入る。」
「了解14532。直ちに二人を拘束せよ。」
喋っただと?アニマが?
理解出来ぬまま困惑していると黒服のうちの一人が突進してくる。
「ぶねっ!!」
瞬時に反応し、少女襟元をつかみながら回避する。間違いなくこいつら殺しに来ている。拘束じゃなかったのか!?
・・・こうなったら、やるしかない。
幸いまだ右手首にはESSを装着していた。ぶっつけ本番ではあるがここで召喚するしかない。
全身の神経を一点に集中させる。イメージするのを常に理想の自分。
「召喚っ!!!」
地面に電脳召喚特有の魔法陣が展開され、高速で回転を始める。
・・・が、しかし。
俺は自分の目を疑った。
召喚されなかったのである。
右手首のESSの画面にはERROR〈エラー〉の文字が表示されている。
こんなこと、かつて電脳召喚してきた時一度も経験したことの無いことだった。召喚方法もイメージも狂っていない。
「なんなんだよ・・・!!」
「高速詠唱かと思えば、詠唱失敗。どうやらあちらの手引きは済んでいるようだな。」
そのまま、また二人が右腕の剣を構え高速で接近してくる。かなりまずい状況。ではあったが、何故か心は落ち着いていた。自分でも驚くほど冷静だったのだ。
集中しろ。感覚を研ぎ澄ませ。かつての鍛錬の日々を思い出せ!!!
黒服の一人が剣を振り下ろす。それに超反応し、横にかわす。続いて二人目の斬撃は、体を限界まで後方に逸らしてギリギリのところで回避する。そのままバク転。相手との距離を開ける。
全身の筋肉が唸りをあげる。躍動する。久々の感覚である。
「おい、どういうことだ!奴は生身の人間だろう?」
「凡才ごときが、何故このような動きを!?」
「・・・あなた・・・?」
少女が驚きの目でこちらを見てくる。
懐かしい感覚。いつからか忘れていたと思っていたが、まだ自分の根底には残っていたようだ。
「お前ら、俺を凡才と言ったな?たしかにその通り。俺は出雲家の末裔でありながら、凡才の奇人だ。」
だが。それがどうした。
天才だろうが、凡才だろうが関係ない。
最後まで戦場で立っている者。それこそが勝者だ。
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