4話 天才同士の争い
「これで今日の全過程は終了とする。明日の登校時間は8時半。間に合わなかったら遅刻にするから、絶対に遅れるなよ。」
長かったような、短かったような。そんな入学式も終わり解散となった。新入生の教室から、続々と帰り支度を済ませた生徒が帰宅していく。
そしていつの間にか教室には四人を残すのみとなっていた。
「一緒に帰ろうぜ圭。王都中央駅までは一緒だろ?」
「分かった。」
「あ、私も帰る。」
「おめーは一人で帰ってろよ。」
「うっさいわねゴリラ。私は圭と過去の思い出を語り合う約束をしてるのよ。」
「んなもんしてねーよ・・・。」
と、たわいもない話をしていると一人の男子生徒が遠巻きにこちらを見ていることに気がついた。背丈は男子にしては少し小柄で、目は細く長くつり上がっている。陽介も見られていることに気づいたのか話を切り出し始める。
「お前も王都中央駅まで一緒に帰るか?」
流石はコミュニケーション力の塊。たしかにこれから一緒のクラスで苦楽を共に味わっていく仲間ではあるが、初対面の相手に一緒に帰ろうなんてことよく言えるものだ。と感心しているとその男子生徒がこちらに近づいてくる。しかしその顔は憤りのようなものを感じた。
「・・・さっきから見てたが、こんなやつが天才なんてな。正直うるせぇし、うぜぇし。」
「それは同感ね。」
「おいおい、お前ら二人揃って酷くないかぁ!?なあ、圭。」
「・・・。」
「ちょっと圭さん!!?お願い、黙らないで!!?」
陽介が横で必死に懇願しているのを横目に俺は朝教室へ入ってきた時に見た座席表を思い出し、この男子生徒が座っていた席の位置から名前を割り出す。
「お前、寮王英樹か。」
「寮王って、こいつが三人の天才のうちの一人か!」
「・・・お前、俺の名前を覚えてたのか?座席表は入学式前の数分しか黒板には表示されてなかったが。」
「それを思い出したってのもあるが、こいつら二人とお前だけがESSを教師の元へと取りに行ってなかったからな。それで割出しただけだ。」
「・・・いい観察眼と記憶力だ。流石は出雲家の末裔といったところか。お前みたいなやつが天才ならなんも文句はねぇが・・・な。」
と言って寮王は陽介へと視線を向ける。不敵な笑みは、容易に陽介のことを馬鹿にしていることを読み取ることが出来た。そして寮王は次に千夜に指を指す。
「おめーも同じだ。四名家の末裔の紅一点、どんな才女かと思えばこんな器の小さい女だったとはな。このゴリラとの口喧嘩も聞いていたが、なんとまた幼稚なことだ。」
「はい?何か言いましたか?ごめんなさい、よく聞こえなかったわチビ。」
「・・・ああ?チビ?誰に言ってんだ?168センチはチビじゃねぇ!!!」
・・・なんか話がそれ始めた気がするぞ。隣にいる陽介は一人で「ゴリラじゃねーよ!!」と叫んでいるし・・・。一体どういう状況なんだ。
「は?168センチ?ちっさ!!女子の私と3センチ差って恥ずかしくないの?男として。あんたは黙って一人で家に帰って牛乳でも飲んでなさいよ!」
「言わせておけば・・・!」
反論がない様子を見るあたり、身長のことはかなり気にしているようだ。こういう弱点を見つけると千夜の攻撃はますます火力を増してくる。最早自分と陽介は蚊帳の外である。
「そこまで言うならアニマで決着をつけるとしようじゃないか。親譲りのボンボン天才がよぉ!」
「上等よ!あんたみたいななんの努力もしないで運だけで天才になったあなたとの格の違いを見せてあげるわよ!!てか、だいたいあんたアニマの扱い方分かってんの?」
「たりまえだ!俺の家だって四名家程ではないがそこそこ歴史あるアニマの家系だ。アニマの扱い方なんでとっくの昔から鍛錬してる!」
これまたどこかで聞いたことのある苗字だと思えば寮王家の人間か。直接的な関わりはこれまでにないが、話だけは聞いたことがある。
「って、おいおい教室でやんのかよ!!?」
「おい、陽介離れろ!」
と言って陽介の首元をつかみ引っ張る。その時、二人は既に詠唱を始めていた。
「漆原に代々伝わりし紅き光速の神よ!疾風迅雷の名の元にその姿、現れよ!」
「空間をも切り裂く銀の剣よ!その剣で一筋の勝利を私に示せ!」
「「召喚っ!!!」」
刹那。凄まじい閃光が教室を包む。それと同時に床には魔法陣が展開され、高速で回転を始める。
「なっ、なんだ!!?」
陽介が驚くのも無理はない。オリジナル・アニマの召喚は滅多に見られないものである。
そして魔法陣から影が伸びる。そしてその影は姿かたちを変え始める。
閃光が消え始めると同時にその影の実態が顕になる。
千夜のアニマは人型。紅い装甲は滑らかな流線型。背中や肘、足など多くの部位にジェットエンジンのような装備をしている。顔はまるで戦闘機のようなとにかく風の抵抗を最小限にしたようなフォルムである。
一方、寮王のアニマも人型で銀色と黒色の装甲をしている。速さに特化したフォルムの千夜のアニマに比べ、こちらは硬い鋼鉄のような装甲で鉄壁という言葉を思わせる。腰には刀のようなものまで装備されれおり、一見〈和〉のような印象を受ける。頭の装甲を兜をイメージさせるようなデザインである。
「す、すげぇ・・・。」
目の前に現れる二体のオリジナル・アニマ。陽介に限らず多く一般人はそう思うだろう。それは俺自身も例外ではなかった。名家二人の末裔のオリジナル・アニマ。こんな状況、興奮せざるを得ない。
と思ったのもつかの間。千夜アニマがフルスロットルで加速し寮王のアニマへと光速で近づく。その速さになるまでの時間と加速に度肝を抜かれた。
光速で相手との距離を詰め寄り、右手で寮王のアニマの首元をつかみに行く。その時間は1秒にもみたなかった。そしてそれに超反応し右手で刀を抜き、その紅い腕をいなしていく。そしてその次の左手、右足の蹴りにも反応し華麗によけていき一旦距離を開けるためにバックステップをする。教室内の机が大きな音を立てながらそこらじゅうに散乱していく。
この一瞬にこれだけの動作をこの二人はやってのけたのだ。アニマは召喚したら自動で戦ってくれるという訳ではなく、アニマは召喚士のイメージの分身。つまり召喚士はアニマの動作のイメージに全身の神経を集中させなければならない。やはりオリジナル・アニマを扱うものが天才とは言われてはいるが、この二人はアニマの扱いについても天才なのかもしれない。
「本物の、天才同士の争い・・・!!なぁ圭、お前はあの二つのアニマどっちも見たことあんのか?」
「いや、寮王の方は見た事ない。千夜のなら千夜の父親が扱ってたアニマに似てるな。高速近接戦闘型アニマ 〈ディープレッド〉とにかく速さに特化したアニマで、その速さはこれまでに発見されてきたアニマの中でも右手で数えられるほどって聞いたことがある。でも父親の時のアニマよりも高速戦闘用の装備が増えてるような・・・。それほどあいつは速さにこだわってるんだろうな。」
「アニマって先祖代々受け継がれてるのもあるって言ったけど全く同じって訳でもないんだな。」
そんな話をしている間にも両アニマは圧倒の白兵戦を教室内で繰り広げている。寮王のアニマは主に刀で、ディープレッドは格闘を武器にしているようだ。見たところ押しているのは千夜のようである。
「どうしたの?そっちから喧嘩をふっかけてきた割にはそれほどって感じね?」
「くっ、くっそ!!」
寮王のアニマは刀を一旦鞘に収め、力を貯める。あれはいわゆる居合斬りの構である。そして音もなく高速でディープレッドに詰寄る。その動きは速さと言うよりも熟練された武士のような、時間を切り取ったように瞬く間に移動する。
そして瞬時に抜刀。流石のディープレッドもその熟練された動作について行くことは難しく右手で受け流すも少し胸の装甲に切り傷がついた。
「かすった!!」
「でも、まだぜんぜん致命傷って感じではないな。」
そしてそのまま、ディープレッドのカウンター。右足の回し蹴りが寮王のアニマの頭部に炸裂。刀で防ごうとするも、その回し蹴りの威力は絶大でそのまま横に吹き飛ばされる。
「これで・・・、終わりっ!!」
そのままトドメの一撃を追撃しようとしたその時であった。
二体のアニマの間に突如として現れる鋼の機体。近未来的な人形ロボットのようた造形をしている。それはディープレッドの殴りをいとも簡単に受け止めていた。
そして教室のドアが開く。そこに現れたのは他でもない、担任の羽島であった。
「・・・お前ら、一体ここで何をしている・・・!!」
その時、四人は悟った。
・・・まずい。
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