番外編 Shall we marry ?

『それでは今週の僕的ゲーム速報のお時間です!今回紹介するゲームは、明日発売の[Shall we marrry?]。ジャンルは恋愛シュミレーションなんですが、なんとこの作品、あの有名恋愛ライトノベル 『オカマに恋は難しい』の原作者の麩菓子さんがストーリーを描いているということで、コアなファンから注目されています!』


週課であるゲーム番組[僕的ゲーム速報2019]を垂れ流しにしていると、ふと気になるワードが出てきた。


『オカマに恋は難しい』

色々なゲームをしているおかげか、Twitterのフォロワーがそこそこ多い俺で、その中でも特に仲良くしているフォロワーさんから勧められた恋愛ラノベだ。


物心着く前からオカマバーで働いていた主人公は、大学生になるまで異性と恋愛することを知らなかったが、進学とともに上京し、そこでのアルバイト先で出会った女の子に恋心を抱いたはいいものの、どう接すればいいか分からず悶々とした日々を送る。という物語だ。

原作者の麩菓子先生の文章力は凄まじいが、主人公が常にオカマ口調なのとキャラデザがガチガチのオカマなので、いかんせん胸キュンや感動はしにくい。

コアなファンからしたらそこがいいらしいが、何となく買ってみた俺は全くハマることが出来ず、数ページ読んだ後にあとがきだけ読み、床に置いて今では少し埃が被っている。


「ギャルゲー…ねぇ」


色々なゲームをしている、と先述したがギャルゲーはやったことがなかった。

勉強、ゲームは極めればそこそこのところまでいけると何となく自負している俺だが、こと恋愛に関してはどんなに努力してもどうにもならないという経験則からくる確信があったので、別に恋愛の疑似体験をしようだなんて思ったことも無かったのである。


『それで麩菓子先生。今作のアピールポイントはどうでしょうか?』


どうでもいいことを考えているうちに番組は進み、麩菓子先生にインタビューをしていた。


『基本的には、簡単に作らせてもらったので結構簡単に攻略できると思います。しかし、実は裏キャラがいましてね。こればっかりは他のどのギャルゲーよりも難しいと思いますよ』


裏キャラってこんな発売前に公表してもいいものなのだろうか。

しかし、他のどのギャルゲーよりも難しいとは大きく出たもんだ。

……少し、興味が湧いてきた。


『裏キャラってここで公表してもいいんですか!?』


『もちろん。なんなら、キャラデザも持ってきましたよ』


『な、なんですって!? 是非!見たいです!』


インタビュアーがそう言うと、麩菓子先生はその裏キャラのデザインを映し出した。












「なんだよこれ……」


少し茶色がかった長い黒髪を、低い位置で2つ結びにしている。暗過ぎず、明る過ぎない青眼に、気持ち程度に切り揃えられた前髪が少しかかっており、儚げに笑うその表情からは、相手との絶対的な壁を感じさせる。

冬服の制服の第1ボタンは外し、その上にリボンをつけている姿から年相応の開放感も見られる。活発過ぎず、大人し過ぎず。健康的なレベルで華奢で、起伏も目に見えてわかるくらいには主張しをしている。

まさに童貞の理想のような女の子だ。


裏キャラにはふさわしい逸材だ。万人受けしそうで、その上、一部からは絶大な人気を獲得できるヒロインになるだろう。現に、さっきから鼓動が五月蝿い。


『名前はアキ。主人公の幼馴染という設定で、ある条件をクリアするとストーリーに現れるようになります』


『ある条件、とは?』


『それはプレイしてからのお楽しみで』


『ですよね。こほん。それでは、今週の僕的ゲーム速報はここら辺でお開きとさせて頂きます!皆さん。是非、明日発売の[Shall we marry?]買ってみて下さい!

see you!!』



明日か。きっとすげえ行列ができるんだろうな。


俺は金とバッグと上着を準備し、アラームを23:00に設定した。

狙うは開店前のさらに前。


「待ってろよ、アキ!!」


こうして、人生初のギャルゲーを俺は経験することになった。






…それにしても、大志を掲げながら布団に入るのも、中々シュールである。

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